「リーダーシップ」の、思い込みを解く
「リーダーシップ」と聞くと、多くの人が、ある一つのイメージを思い浮かべます。強いカリスマ性を持った個人が、集団を力強く引っ張っていく——そんな姿です。しかし、このイメージは、リーダーシップのほんの一面にすぎません。前レッスンまでで、組織の仕組みと、その硬直を見ました。このレッスンでは、その組織を動かし、時に硬直から救う力——リーダーシップを、問い直します。リーダーシップには、実は、多様な姿があり、「これが正解」という単一の型は、存在しないのです。この理解は、あなたが組織を見る目を、そして自分自身のあり方を、変えるかもしれません。
リーダーシップは、一つではない
まず、最も大切なことから。リーダーシップに、唯一の正解はありません。「優れたリーダー」の姿は、状況や集団によって、大きく変わります。いくつかの型を見てみましょう。
- 引っ張る型(カリスマ型・指示型):明確なビジョンを掲げ、強く方向を示し、人々を引っ張る。危機のときや、方向性が定まらないときには、力を発揮します
- 支える型(サーバント型):自分が前に立つのではなく、メンバーを支え、その力を引き出すことに徹する。「リーダーは、メンバーに奉仕する存在だ」という発想です
- 調整する型:多様な意見をまとめ、合意を作ることに長ける。熟議を導く力です
- 状況に応じて使い分ける型:一つの型に固執せず、状況やメンバーに応じて、対応を柔軟に変える
かつては、「強く引っ張るリーダー」が理想とされがちでした。しかし、それが常に最良とは限りません。強すぎるリーダーは、前に集団思考で見たように、メンバーが異論を言えない雰囲気を作り、かえって組織を誤らせることもあります。どのリーダーシップが有効かは、状況次第なのです。「リーダーとはこうあるべき」という単一の思い込みを捨てることが、リーダーシップを理解する第一歩です。
なぜ、「引き出す」型が重視されるのか
近年、とりわけ「メンバーの力を引き出す」型のリーダーシップが、重視されるようになりました。なぜでしょうか。その背景には、時代の変化があります。
かつて、環境が安定し、やるべきことが明確だった時代には、リーダーが方向を決め、メンバーがそれに従う、というトップダウンの形が、有効でした。しかし、前に繰り返し見てきたように、現代は、変化が速く、複雑で、先が読めません。こうした時代には——
- 一人のリーダーが、すべてを見通し、正しく判断することは、難しい
- 現場のメンバーのほうが、状況をよく知っていることが多い
- 素早く対応するには、現場が自律的に考え、動けるほうがよい
だから、リーダーの役割は、「すべてを指示する」ことから、「メンバーが力を発揮できる環境を整え、その力を引き出す」ことへと、重心を移してきました。前に集合知で見たように、多様なメンバーの知恵を引き出せる組織のほうが、複雑な環境に、うまく対応できるのです。優れたリーダーは、必ずしも「最も賢い個人」ではなく、「メンバーの知恵を最も引き出せる人」なのかもしれません。
リーダーシップは、役職ではない
最後に、もう一つの思い込みを解きましょう。リーダーシップは、役職や地位とは別のものです。「リーダー(役職)」でなくても、「リーダーシップ(人を良い方向へ動かす働き)」を発揮することはできます。
- チームの中で、率先して問題を指摘し、改善を促す
- 周りの人を支え、力づける
- 良い雰囲気を作り、心理的な安全性を高める
こうした働きは、役職に関係なく、誰でも発揮できます。むしろ、前に社会運動で見たように、大きな変化は、しばしば、役職を持たない人々のリーダーシップから始まります。リーダーシップを「一部の偉い人のもの」と考えるのをやめ、「自分にもできる働き」と捉え直すこと。それが、組織を、そして社会を、より良くする一歩になります。リーダーシップとは、地位ではなく、行動なのです。
ニュースで使う視点
組織のトップの交代、リーダーの手腕、組織改革——リーダーシップに関わるニュースを読むときは、「このリーダーは、どんな型か」「引っ張る型と引き出す型、状況に合っているか」を考えてみてください。リーダーシップを多様な姿から捉える視点が、組織のニュースを、より立体的に読ませてくれます。次の最終レッスンでは、組織を最も深く規定するもの——組織文化と、その変革を見ます。