アズリテ
犯罪と社会・ レッスン 2 / 4
社会科学 / 社会・心理

なぜ罰するのか

読了目安 4/灯る概念:

「罰する」を、問い直す

前レッスンで、犯罪とは社会が定めるものだと見ました。では、その犯罪に対して、社会はなぜ、そしてどのように罰するのでしょうか。「悪いことをしたのだから罰するのは当然だ」——そう思うかもしれません。しかし、「なぜ罰するのか」を突き詰めると、実は簡単には答えの出ない、深い問いが現れます。これは、正義倫理の根本に関わる、重要なテーマです。

刑罰の、四つの目的

刑罰には、伝統的に、いくつかの目的が論じられてきました。主なものを挙げます。

  • 応報:犯した罪に見合った報いを与える。「罪には罰を」という、最も直感的な考え方。ただし、これは「復讐」とは区別されます。感情的な報復ではなく、罪の重さに釣り合った罰を、社会が公正に与える、という考えです
  • 抑止:将来の犯罪を防ぐ。「罰せられる」と分かっていれば、人は犯罪を思いとどまる、という考え。本人への抑止と、社会全体への見せしめ的な抑止があります
  • 更生(教育):犯罪者を立ち直らせ、社会に戻す。罰は、罰すること自体が目的ではなく、その人が二度と罪を犯さず、社会の一員に戻るための手段だ、という考え
  • 隔離(無害化):危険な人物を社会から遠ざけ、人々を守る。その人が自由でいる限り危険なら、隔離することで社会を保護する、という考え

現実の刑罰制度は、これらの目的が組み合わさって成り立っています。しかし、どの目的をどれだけ重視するかは、社会や時代、そして人によって、大きく異なります。

目的どうしの、緊張

ここに、刑罰をめぐる議論の難しさがあります。これらの目的は、しばしば互いに緊張するのです。

たとえば、更生を重視する立場は、犯罪者を立ち直らせるために、教育や社会復帰の支援を重んじ、刑を軽くする方向へ向かいます。一方、抑止を重視する立場は、「厳しく罰することで犯罪を防ぐ」として、厳罰を求める方向へ向かいます。同じ事件に対して、「更生の機会を」という声と、「もっと厳しく」という声が対立するのは、このためです。

  • 応報を徹底すれば、更生の観点が薄れる
  • 抑止を強調すると、罪と釣り合わない重罰になる恐れがある
  • 更生を重んじると、被害者感情や応報の要請と衝突する

これは、価値の対立そのものです。どちらかが絶対に正しい、という答えはありません。どの価値を、どれだけ重んじるか——社会は、この難問に、絶えず答えを出し続けなければならないのです。刑罰の議論が、いつも激しく分かれるのは、私たちが何を大切にするかという、根本的な価値観の違いを映しているからです。

感情と、制度のあいだ

犯罪、とりわけ重大な事件に対して、私たちは強い感情——怒り、恐怖、報復の願い——を抱きます。それは自然なことです。しかし、刑罰の制度は、この感情を、そのまま実行するものであってはなりません。もし被害者や世論の感情だけで刑が決まれば、それは復讐であり、法の支配ではなくなります。

だからこそ、社会は、感情を受け止めつつ、それを公正な手続きと、釣り合いのとれた刑罰へと置き換えてきました。刑罰をめぐって考えることは、「私たちの正義の感情を、どう制度に組み込むか」という、成熟した社会の課題を考えることでもあるのです。

ニュースで使う視点

事件の量刑、刑事司法制度、厳罰化や更生をめぐる議論のニュースを読むときは、「ここでは、刑罰のどの目的(応報・抑止・更生・隔離)が重視されているか」「対立する意見は、どの価値を優先しているのか」を見てください。この視点は、感情的な「厳罰か寛容か」の対立を、より深く読み解く力になります。次のレッスンでは、そもそも犯罪の原因を考えます。

理解度チェック

全問回答でレッスン完了・概念が灯ります
0 / 2
Q1刑罰の目的とされる考え方の組み合わせとして、最も適切なものはどれですか?
Q2刑罰の目的をめぐる議論が「簡単に答えが出ない」のはなぜですか?