アズリテ
科学史入門・ レッスン 2 / 4
自然科学 / 科学の考え方

パラダイムと科学の進歩

科学は「まっすぐ」進歩するのか

科学は、少しずつ知識を積み上げて、まっすぐ進歩していく——私たちはそうイメージしがちです。しかし20世紀、この常識に異議を唱えた思想家がいました。科学史家トマス・クーンです。彼の『科学革命の構造』は、「科学はどう進歩するか」という問いに、意外な答えを示し、科学の見方を一変させました。前レッスンの科学革命を、より深く理解するための視点です。

パラダイム——科学者が共有する「眼鏡」

クーンの鍵概念がパラダイムです。パラダイムとは、ある時代の科学者たちが共有する、ものの見方・前提・問題の立て方の枠組みです。いわば、科学者集団がかけている共通の「眼鏡」のようなもの。

科学者は通常、このパラダイムの中で研究します。天動説のパラダイムの中では、「惑星の複雑な動きをどう説明するか」を、天動説の枠組みで解こうとする。パラダイムは、何を問うべきか、何が良い答えか、どんな方法が正しいかを定めます。クーンはこれを「通常科学」と呼びました。既存の枠組みの中で、パズルを解くように知識を積み上げていく、科学の日常的な営みです。この段階では、確かに科学は連続的に進歩します。

異常の蓄積と、革命

ところが、時々おかしなことが起きます。既存のパラダイムではどうしても説明できない事実(異常)が現れるのです。最初は、「そのうち説明できるだろう」と無視されます。しかし、異常が積み重なっていくと、パラダイムへの信頼が揺らぎ始めます。

そして、ある時、新しいパラダイムが登場し、枠組みそのものが根本的に置き換わる。これがパラダイムシフト(科学革命)です。天動説から地動説への転換が、まさにこれでした。惑星の動きを天動説で説明しようとする無理が限界に達し、地動説という新しい枠組みが、すべてをすっきり説明した。ニュートン力学から相対性理論・量子力学への転換も、パラダイムシフトの例です。

クーンの洞察は、科学は単純な右肩上がりの積み重ねではなく、「通常科学(積み重ね)」と「革命(枠組みの転換)」を繰り返して進む、というものでした。進歩は、連続と断絶の両方を含むのです。

パラダイムを知ることの意義

この見方は、科学を理解する上で重要な示唆を与えます。第一に、現在の科学も一つのパラダイムにすぎず、将来くつがえる可能性があるという謙虚さ。今「常識」とされる理論も、未来のパラダイムシフトで書き換わるかもしれません。第二に、科学者も人間であり、既存の枠組みに縛られるという現実。新しいパラダイムへの転換には、しばしば世代交代を要するほどの抵抗が伴います(認知バイアスは科学者にも働きます)。

ただし注意も必要です。「科学はどうせパラダイムで変わる」を、「だから科学は信用できない」と曲解してはいけません。パラダイムシフトは、科学が誤りを正す力を持つことの証でもあります。より良い説明へと自己修正できる——これは科学の弱さではなく、強さなのです。

ニュースで使う視点

「定説を覆す発見」「科学の常識が変わる」といったニュースは、パラダイムの視点で読めます。多くは既存の枠組み内の話ですが、時に本物のパラダイムシフトも起きます。「現在の科学も暫定的」という謙虚さと、「それでも自己修正する科学は信頼できる」という認識の、両方を持つ。次のレッスンでは、この科学が社会とどう関わるかを見ます。

理解度チェック

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Q1クーンの「パラダイム」という概念の説明として、最も適切なものはどれですか?
Q2クーンが示した「科学は連続的な進歩ではなく、時に革命的な転換で進む」という見方の説明として、最も適切なものはどれですか?

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