体の中の「記憶する防衛隊」
私たちの体には、外から侵入する病原体と戦う免疫という仕組みが備わっています。免疫のすごさは、単に敵を攻撃するだけでなく、一度戦った相手を記憶する点にあります。
はしかに一度かかると二度とかからないのは、免疫が「はしかウイルスの顔」を覚えていて、次に来たとき即座に撃退するからです。この記憶があるおかげで、私たちは同じ病気に何度も苦しまずに済んでいます。
ワクチン——予行演習という発明
問題は、「一度かかって覚える」方法だと、その一度で重症化したり命を落としたりしうることです。そこで生まれた発明がワクチンです。
ワクチンの原理はシンプルです。病原体の一部や、無害化した病原体を体に見せる。すると免疫は「本物が来た」と勘違いして記憶を作ります。実際の病原体が侵入したときには、すでに準備が整っている——いわば感染の予行演習です。天然痘の根絶も、多くの子どもの命を奪ってきた感染症の激減も、この仕組みの成果です。
前レッスンの進化ともつながります。インフルエンザのワクチンを毎年打つのは、ウイルスが変異し続けて「顔」が変わるため、記憶を更新する必要があるからです。
集団免疫——個人を超えた防御
免疫にはもう一つ、社会レベルの働きがあります。集団免疫です。
ある集団で免疫を持つ人が一定割合を超えると、病原体は次の感染相手を見つけにくくなり、流行の連鎖が止まります。重要なのは、これによってワクチンを打てない人——生まれたばかりの乳児、治療中で免疫が弱っている人など——も間接的に守られることです。ワクチン接種は、自分のためであると同時に、打てない誰かを守る公衆衛生の行為でもあるのです。
ニュースで使う視点
ワクチンをめぐる報道は、感情的な議論になりがちです。だからこそ「仕組み」を土台に読むことが大切です。「ワクチンで免疫ができる仕組み」「集団免疫が守る対象」を理解していれば、副反応のリスクと感染のリスクを冷静に比べる(期待値とリスク)出発点に立てます。効果や安全性の主張については、次のレッスンで学ぶ「エビデンスの確かめ方」が判断の道具になります。
なお、ワクチンをめぐっては疑似科学や偽情報も広がりやすい分野です。仕組みの理解は、そうした情報への最良の予防接種でもあります。次は「効く」をどう確かめるかを学びましょう。