リスクは「確率」だけでは測れない
「その健康法は危険だ」「この投資はリスクが高い」——リスクという言葉は日常にあふれていますが、正しく測るには2つの要素が必要です。起こりやすさ(確率)と影響の大きさ(結果)です。この2つを掛け合わせる考え方が期待値です。
前のレッスン(確率の直感)で確率を扱いました。ここに「起きたらどれだけの得または損か」を掛けることで、ばらばらの選択肢を同じ物差しで比べられるようになります。
期待値の計算——宝くじはなぜ割に合わないか
期待値は「(結果の価値 × その確率)をすべて足す」だけです。宝くじで考えてみましょう。1等が数億円でも、当たる確率は極端に小さい。「当選金 × 当選確率」を全部の等級について足し合わせると、払い戻しの期待値は購入額の半分程度にしかなりません。つまり平均すれば、買うほど損をする設計です。
もちろん「夢を買う」娯楽としての価値は別にあります。ここで大事なのは、金銭的な期待値と、自分にとっての価値は違うと切り分けて考えられることです。保険はこの逆で、期待値だけ見れば加入者は平均で損をしますが、「万一の破滅を避ける」価値を買っているから成立します。
期待値だけでは足りないとき
期待値は強力ですが、万能ではありません。弱点は、「めったに起きないが、起きたら取り返しがつかない」事象を過小評価することです。
大地震、原発事故、パンデミック——これらは確率が低いため、期待値の計算では「平均的な見込み」に薄められ、小さく見えます。しかし一度起きれば回復不能な壊滅的損害が出る。だから防災や安全設計では、期待値に加えて「最悪の場合、どこまで深刻か」を独立に評価します。「確率が低いから大丈夫」は、影響が甚大な事象には通用しないのです。逆に、確率は高くても影響が小さいこと(よくある小さなミス)は、過度に恐れる必要はありません。
ニュースで使う視点
リスクを報じるニュースは、しばしば片方の要素だけを強調します。「確率は低い」と安心させる報道は影響の大きさを、「甚大な被害」と煽る報道は確率の低さを、それぞれ隠しがちです。「確率」と「影響」の両方が揃って初めてリスクが測れる——この2軸を意識するだけで、恐怖と楽観の間で適切な位置に立てます。
次の最終レッスンでは、確率と並んで人間の直感を裏切るもう一つの現象——指数的な変化を扱います。