交渉は、勝負ではない
「交渉」と聞くと、多くの人が、勝ち負けの勝負を思い浮かべます。相手を言い負かし、こちらの要求を通し、できるだけ多くを、奪い取る——。しかし、この捉え方は、交渉の本質を、大きく取り違えています。そして、しばしば、良い結果を、生みません。このコースでは、交渉と紛争解決を、社会心理学やゲーム理論の視点も交えて、学びます。交渉は、ビジネス、国際関係、そして日常の人間関係まで、あらゆる場面で役立つ、実践的な技術です。まず、「交渉とは何か」という、その本質から、捉え直しましょう。
合意を、作り出す営み
交渉とは、より建設的に捉えると、利害の異なる当事者どうしが、対話を通じて、双方が受け入れられる合意を、作り出そうとする営みです。ここで重要なのは、「勝ち負け」ではなく、「合意を作る」という視点です。
- 交渉の相手は、打ち負かすべき敵ではなく、共に問題を解決するパートナーでもある
- 目指すのは、一方が勝ち、一方が負けることではなく、双方が受け入れられる結果
- 良い交渉は、しばしば、双方が「これでよかった」と思える合意を、生み出す
なぜ、「勝ち負け」より「合意作り」のほうが、良いのでしょうか。理由はいくつもあります。相手を打ち負かして、無理やり合意させても、相手は不満を残し、合意を守らなかったり、次の対立を生んだりします。とりわけ、関係が続く相手との交渉では、一時的に勝っても、長期的には損をすることが多い。逆に、双方が納得する合意なら、それは守られやすく、関係も続きます。だから、賢い交渉者は、「いかに相手を打ち負かすか」ではなく、「いかに双方が納得する合意を作るか」を、考えるのです。
「立場」ではなく「利害」を見る
交渉の技術で、最も重要な考え方の一つが、「立場」と「利害」を区別することです。これは、交渉を、対立から協力へと転換させる、鍵となる視点です。
- 立場:表面的に主張していること。「私は◯◯を要求する」という、表明された要求
- 利害(関心):その立場の裏にある、本当に満たしたいもの。「なぜ、それを要求するのか」という、深いところにある関心
しばしば、交渉は、立場どうしが、ぶつかり合います。「私はAを要求する」「いや、私はBを要求する」。立場だけを見ると、対立は、解けないように見えます。しかし、その裏にある利害に目を向けると、話が変わることがあります。
有名なたとえがあります。姉妹が、一つのオレンジを、取り合っています。立場は、「私が全部欲しい」「いや、私が全部欲しい」で、対立しています。単純に分ければ、半分ずつ。しかし、よく聞いてみると——姉は、オレンジの皮を、お菓子作りに使いたい。妹は、実を、食べたい。つまり、二人の利害は、実は、対立していなかったのです。皮を姉に、実を妹に渡せば、両方が、完全に満足できる。立場だけ見ていたら、半分ずつで、両方が不満だったでしょう。
このように、立場の裏にある、本当の利害を探ると、対立して見えたものが、実は両立できたり、双方を満たす新しい選択肢が見つかったりする。「なぜ、相手はそれを求めるのか」を問うことが、交渉を、奪い合いから、問題解決へと、変えるのです。
交渉は、日常にあふれている
交渉は、ビジネスや外交だけの、特別なものでは、ありません。私たちの日常は、実は、交渉に、あふれています。
- 家族との、家事の分担や、休日の過ごし方の相談
- 職場での、仕事の進め方や、条件の話し合い
- 友人との、意見の食い違いの、すり合わせ
- 買い物や、サービスをめぐる、やりとり
これらはすべて、広い意味での、交渉です。だから、交渉の技術を学ぶことは、人間関係を、より良くする力になります。「勝ち負け」ではなく「合意作り」、「立場」ではなく「利害」——この視点を持つだけで、日常の様々な対立が、より建設的に、解決できるようになるのです。次のレッスンでは、その対立の構造を、より深く読み解く方法を見ます。
ニュースで使う視点
ビジネスの交渉、労使交渉、国際交渉、政治の駆け引きに関わるニュースを読むときは、「これは、勝ち負けの勝負か、合意作りか」「各当事者の、表面的な立場の裏にある、本当の利害は何か」を考えてみてください。交渉の視点は、対立をめぐるニュースを、深く読み解く力になります。次のレッスンでは、対立の構造を読む方法を見ます。