アズリテ
時間の科学と哲学・ レッスン 1 / 4
自然科学 / 物理・宇宙

時間とは何か——物理の時間

読了目安 4/灯る概念:

誰もが縛られ、誰も正体を知らないもの

時間。私たちは、常に時間に縛られて生きています。時計を見て、締め切りに追われ、年をとる。それなのに、「時間とは何か」と問われると、答えに詰まります。哲学者アウグスティヌスは、「時間とは何か。誰も問わなければ知っているが、問われて説明しようとすると、分からなくなる」と述べました。この発展コースでは、この最も身近で最も謎めいた「時間」を、物理・心理・社会・哲学の多面的な視点から問い直します。まずは、物理学が明かす、意外な時間の姿から。

時間は「絶対」ではない

私たちは素朴に、時間は、すべての人にとって同じ速さで、一様に流れる絶対的なものだと感じています。しかし、相対性理論は、この常識を覆しました。

アインシュタインが示したのは、時間の進み方は、運動の速さや重力によって変わるということです。速く動くものほど、時間はゆっくり進む。重力の強い場所ほど、時間はゆっくり進む。だから、誰にとっても同じ「絶対的な時間」は存在しないのです。これは、思考実験ではなく、GPSが相対論で補正されているという現実で確かめられています。「今、この瞬間」という、宇宙で共通の時刻すら、実は存在しない。時間は、私たちが思うよりずっと、柔らかく、相対的なものなのです。

「時間の矢」の謎

物理学には、時間をめぐる、もっと深い謎があります。時間の矢——なぜ時間には「向き」があるのか、という問題です。

考えてみてください。ボールが転がる、惑星が回る——こうした基本的な物理法則の多くは、時間を逆向きにしても成り立ちます。映像を逆再生しても、物理的におかしくない。それなのに、現実の時間は、過去から未来へ、一方向にしか進みません。割れたコップは元に戻らず、こぼれた水は自然には集まらず、私たちは老いていく一方です。物理法則が時間の向きを区別しないのに、なぜ現実の時間には、はっきりした向きがあるのか。

この謎への手がかりの一つが、エントロピー(乱雑さ)の増大です。宇宙は、秩序ある状態から乱雑な状態へと向かう傾向があり、この「乱雑さが増える方向」が、時間の向きと一致する、という考えです。しかし、なぜ宇宙が秩序ある状態から始まったのか、時間の矢の根源は何かは、宇宙論とも絡む、未解決の大問題です。時間という当たり前のものが、実は物理学の最前線の謎なのです。

時間は「実在」するのか

さらに根源的な問いもあります。そもそも時間は、実在するのか。 「過去」はもう存在せず、「未来」はまだ存在しない。実在するのは「今」だけだ、という考えもあります。一方、物理学の一部の見方では、過去・現在・未来がすべて等しく存在し(ブロック宇宙)、「流れる時間」は人間の意識が作る幻かもしれない、とも言われます。「時間は流れている」という私たちの実感すら、確かなものではないのです。これは、次のレッスンで見る「心が感じる時間」と、深く関わってきます。

ニュースで使う視点

時間の物理は、直接ニュースになることは稀です。しかし、「当たり前だと思っているもの(時間)が、実は深い謎である」という経験は、科学の奥深さと、人間の直感の限界を教えてくれます。相対論や宇宙論のニュースを読むときの、土台にもなります。次のレッスンでは、物理の時間から、私たちが実際に感じる時間へと、視点を移します。

理解度チェック

全問回答でレッスン完了・概念が灯ります
0 / 2
Q1相対性理論が明らかにした時間についての考え方として、最も適切なものはどれですか?
Q2物理学における「時間の矢(時間に向きがあること)」の謎の説明として、最も適切なものはどれですか?

この概念とつながる他のレッスン

同じ概念を別のコースの視点から学ぶと、知識が地図としてつながります。