街は「読める」
私たちは毎日、無数の建物に囲まれて暮らしています。しかし、それらを「読んで」いる人は多くありません。実は建築は、絵画や音楽と並ぶ芸術であり、同時に、その時代の技術・思想・社会を映す鏡でもあります。このコースは、街を「見る」対象から「読む」対象へ変える視点を養います。建築を読めるようになると、通い慣れた街も、旅先の風景も、まったく違って見えてきます。
建築の三要素——用・強・美
古代ローマの建築家ウィトルウィウスは、建築に必要な三つの要素を挙げました。用・強・美です。
- 用(機能):役に立つこと。人が実際に使い、目的にかなっていること
- 強(構造):丈夫で安全なこと。崩れず、人を守ること
- 美(美しさ):美しく、心地よいこと
この三つを同時に満たさねばならない点が、建築を独特の芸術にしています。絵画は美だけを追求できますが、建築はそうはいきません。どんなに美しくても、雨漏りしては困るし、崩れては命に関わる。実用と安全という制約の中で美を実現する——この制約が生む創造性こそ、建築の魅力です。名建築とは、この三要素が高い次元で調和したものなのです。
建築は思想を映す
建築を読む醍醐味は、そこに時代の思想と社会が刻まれていることです。何を、どう建てるかには、その時代の価値観が反映されます。
- 宗教建築:天を目指すゴシックの大聖堂は、神への信仰と、それを支えた技術と社会の力を示す
- 権力の建築:壮大な宮殿や記念碑は、権力の誇示です。建物の大きさは、しばしば力の大きさを語ります
- 近代のビル:機能と効率を追求したガラスと鉄の高層ビルは、近代の合理主義と経済の論理を体現します
「装飾は罪だ」と言い切った近代建築の運動(モダニズム)は、単なるデザインの話ではなく、伝統や無駄を排し機能を重んじる、時代の思想の表れでした。建築を読むとは、その背後にある「なぜこう建てたのか」を読むことなのです。
誰のための建築か
建築を読むもう一つの視点が、「誰のための建築か」です。建築は多額の費用を要するため、お金と権力と切り離せません。壮麗な建築は、それを建てさせた権力や富の存在を物語ります。一方、公共の図書館や公園といった建築は、誰もが使える空間という、また別の価値観を映します。建物を見るとき、「これは誰が、誰のために建てたのか」を問うと、社会の構造が見えてきます。
ニュースで使う視点
新しいランドマークの建設、歴史的建造物の保存か取り壊しか、公共建築の是非——建築のニュースを読むときは、「用・強・美のバランス」「どんな思想・価値観を体現しているか」「誰のための建築か」を問うてください。次のレッスンでは、建物の集合体である都市へと視野を広げます。