「みんなの声」の力
前レッスンで見た多様な政治参加の多くは、世論を形づくることで政治を動かします。メディアと世論で世論の測り方を学びましたが、ここでは、世論がどうやって政治を動かすのか、その力と限界を掘り下げます。「みんなの声」は、確かに政治を変える力を持ちます。しかし、その力には、注意すべき面もあります。
世論が政治を動かす回路
世論は、いくつかの回路を通じて、政治に影響を与えます。
- 選挙を通じて:政治家は、次の選挙での評価を気にします。だから、世論に反する政策は取りにくく、世論が支持する政策は進めやすい。内閣支持率が政権の力を左右するのは、この回路です
- 政策への圧力:強い世論は、政策を後押ししたり、逆に歯止めをかけたりします。多くの人が反対すれば、政府は計画を見直さざるをえないことがある
- 議題を設定する:世論が特定の問題に注目すれば、それが政治の議題になります。「みんなが問題だと思っている」ことは、政治家も無視できません
歴史を見ても、世論の力が政治を変えた例は数多くあります。市民の声が、権利の拡大、政策の転換、時に体制の変化をもたらしてきました。世論は、選挙の間も政治に影響を与え続ける、生きた力なのです。だからこそ、政治参加を通じて世論を形づくることには、意味があります。
世論の力の限界と危うさ
しかし、世論の力を過信することには、危うさもあります。上流の学びとして、この面も冷静に見ましょう。
第一に、世論は、常に正しいとは限りません。多数決の意見が、賢明で公正だとは限らない。世論は、感情や一時的な空気、偏った情報に流されることがあります。集団心理やエコーチェンバーで、世論が極端に振れることもある。歴史上、誤った世論が、差別や戦争を後押しした例もあります。
第二に、世論は操作されうる。プロパガンダ、偽情報、メディアのフレーミングによって、世論は作られ、歪められることがあります。「みんなが望んでいる」という声が、実は仕組まれたものかもしれません。
第三に、多数の世論が、少数者を抑圧する危険。民主主義は多数決だけでなく、少数者の権利の尊重を含みます。世論の力が強すぎると、「多数者の専制」に陥る恐れがある。
世論と、どう付き合うか
だから、世論とは、慎重に付き合う必要があります。世論の力を尊重しつつ、それを盲信しない。自分が世論を形づくる側として関わるときは、事実にもとづき、冷静に判断する。そして、世論に流されそうなときは、少数意見に耳を傾け、立ち止まって検証する。世論は、民主主義の力であると同時に、その質は、市民一人ひとりの判断力にかかっているのです。健全な世論は、健全な市民から生まれます。
ニュースで使う視点
世論調査、支持率、政策への賛否、市民の反対運動、SNSでの盛り上がり——世論に関わるニュースを読むときは、「この世論は、どう政治を動かしているか」「その世論は、冷静な判断か、それとも一時の空気や操作されたものか」を問うてください。次のレッスンでは、世論をより質の高いものにする試み——熟議民主主義を見ます。