「決める」を、科学する
私たちは、一日に無数の決定をしています。何を食べるか、何を買うか、どう時間を使うか——そして時に、進学、就職、結婚といった、人生を左右する大きな決定も。「うまく決められた」と思うこともあれば、後悔することもあります。では、どう決めるのが「良い」決定なのでしょうか。このコースでは、確率、統計、行動経済学、ゲーム理論で学んできたことを、「意思決定」という実践的なテーマに結集させます。より良い決定のための、科学を学びましょう。
合理的な意思決定の枠組み
まず、「合理的な意思決定」の基本の枠組みを押さえましょう。大まかに、次のステップからなります。
- 目的を明確にする:何を達成したいのか。何を大切にするのか。ここが曖昧だと、良い決定はできません
- 選択肢を洗い出す:取りうる選択肢を、できるだけ広く挙げる。「AかBか」の二択に見えても、実は他の選択肢があることも(二者択一の誤りを避ける)
- 結果と起こりやすさを見積もる:各選択肢が、どんな結果を、どのくらいの確率でもたらすか。期待値の考え方が生きます
- 目的に照らして選ぶ:目的に最も適う選択肢を選ぶ
この枠組みは、当たり前に見えて、実は多くの決定で省略されがちです。目的を曖昧にしたまま、選択肢を十分に検討せず、結果を見積もらずに、なんとなく決めてしまう。この枠組みを意識するだけで、決定の質は上がります。
完璧な合理性は、幻想
しかし、ここで重要な現実があります。人間は、完全に合理的にはなれない、ということです。上の枠組みを、厳密に実行するには、すべての選択肢を知り、すべての結果を正確に見積もり、無限の計算をする必要があります。現実の人間には、それは不可能です。
私たちは、情報も、時間も、認知能力も限られる中で、判断せざるをえません。経済学者サイモンは、これを限定合理性と呼びました。人間は、完璧に最適な選択(最大化)を目指すのではなく、「まあ十分に良い」選択(満足化)で手を打つことが多い、と。これは、行動経済学が示した「人間は完全には合理的でない」という洞察の、土台でもあります。
だから、意思決定の科学が目指すのは、「完璧な合理性」ではありません。限られた条件の中で、判断の質を、少しでも高めることです。良い決定の枠組みを使い、心のクセに気づき、不確実性とうまく付き合う。完璧を目指すのではなく、より良くする——これが現実的な目標です。
決定の「質」と「結果」を分ける
意思決定を考える上で、重要な区別があります。決定の「質」と「結果」は、別だということです。良い決定をしても、運が悪くて悪い結果になることもあります。逆に、悪い決定でも、たまたま良い結果になることもある。だから、結果だけで決定の良し悪しを判断してはいけません。「うまくいったから良い決定だった」「失敗したから悪い決定だった」——これは、結果論です。大切なのは、決定を下した時点で、手に入る情報にもとづいて、良い判断ができたかです。この区別は、自分の決定を振り返るときも、他者の決定を評価するときも、重要です。
ニュースで使う視点
政策決定、経営判断、リスクをめぐる選択——意思決定に関わるニュースを読むときは、「目的は明確か」「選択肢は十分に検討されたか」「結果だけで判断していないか(結果論に陥っていないか)」を意識してください。次のレッスンでは、良い決定を狂わせる——心のクセを見ます。