後悔する決定には、パターンがある
前レッスンで、人間は完全には合理的になれないと述べました。特に、私たちの決定を狂わせるのが、認知バイアス——心の系統的なクセです。後悔する決定を振り返ると、そこには、しばしば共通のパターンがあります。このクセを知り、対策することが、前レッスンの枠組みを実際に機能させる鍵になります。心理学や行動経済学で学んだバイアスを、「決定」という角度から捉え直しましょう。
決定を歪める代表的なクセ
意思決定を歪める、代表的なバイアスを見てみましょう。
- 確証バイアス:自分の考えや望む結論を支持する情報ばかりを集め、反対の情報を軽視する。「こうであってほしい」という願望が、証拠の集め方を歪める。意思決定を偏らせる、最も厄介なクセの一つです
- アンカリング:最初に得た情報(数字など)に、判断が引きずられる。「定価5万円が今なら3万円」と言われると、3万円が安く感じる(前に見た)
- 損失回避:損を避けたい気持ちが強すぎて、合理的な判断を歪める。損切りできない、現状を変えられない
- サンクコスト(埋没費用)の誤り:すでに使ってしまい取り戻せない費用(時間・お金)に引きずられて、続けるべきでないものを続ける。「ここまでやったのだから」と、傷を広げる
- 利用可能性ヒューリスティック:思い出しやすい情報を過大評価する。印象的な出来事(珍しい事故など)を、実際の確率より高く見積もる
- オーバーコンフィデンス(過信):自分の判断や能力を、実際より高く見積もる。「自分は大丈夫」という過信が、リスクを見誤らせる
これらは、誰の心にも働きます。「自分はバイアスにかからない」と思うこと自体が、過信バイアスの現れです。
「意識するだけ」では防げない
バイアスの厄介なところは、知っているだけでは、なかなか防げないことです。「確証バイアスに気をつけよう」と思っても、無意識に働くバイアスは、意志の力だけでは消せません。では、どうすればよいのでしょうか。
答えは、前に学んだように、バイアスを補正する「仕組み」を取り入れることです。意志ではなく、仕組みで対抗するのです。
- あえて反対を探す:自分の結論を支持する情報だけでなく、反対する情報や反証を、意識的に探す。「自分が間違っているとしたら、どんな証拠があるか」と問う
- 他者の視点を求める:自分では気づかないバイアスを、異なる立場の人が指摘してくれる。集団思考を避けるため、あえて反対意見を言う役を置く
- 決定を急がない:感情が高ぶっているときや、時間に追われているときは、バイアスが働きやすい。一呼吸おき、時間をおいてから決める
- データにもとづく:直感だけでなく、事実やデータで確かめる
- 記録して振り返る:決定とその理由を記録し、後で振り返る。自分のバイアスのパターンに気づける
これらは、科学が誤りを正す仕組みを持つのと同じ発想です。人間は間違える。だから、間違いを補正する仕組みを、あらかじめ組み込んでおくのです。
ニュースで使う視点
政策の失敗、経営判断の誤り、投資の失敗、集団的な過ち——決定の失敗に関わるニュースを読むときは、「どんなバイアスが働いた可能性があるか」「補正する仕組みはあったか」を考えてみてください。そして、自分自身の決定にも、この視点を向ける。次のレッスンでは、個人を超えて、集団で決める難しさを見ます。