デザインは、社会を作り変える
このデザインコースの締めくくりは、デザインの最も大きな力——社会を変える力です。前レッスンまでで、デザインが問題解決であり、使いやすさを追求することを見ました。しかしデザインの影響は、個々のモノの使い勝手にとどまりません。デザインは、人の行動を方向づけ、機会を左右し、社会のあり方を形づくるのです。ここに、デザインの大きな力と、それに伴う責任があります。
デザインは行動を方向づける
前に見た都市デザインやナッジと同じく、モノや環境のデザインは、人の選択と行動を、そっと方向づけます。
- 階段を魅力的にデザインし、エスカレーターを目立たなくすれば、人は階段を使い、運動が増える
- ゴミ箱の分別を分かりやすくデザインすれば、リサイクルが進む
- アプリのデザインが、人を長く使わせるようにも、健康的な使い方を促すようにも設計できる
- 投票所や書類のデザインが、投票率や手続きの完了率を左右する
これは、デザインが、法律や強制ではなく、環境の設計を通じて、人の行動に影響する力を持つことを示します。良いデザインは、望ましい行動を、無理なく、自然に引き出せる。状況の力を、良い方向に使う営みとも言えます。デザインは、社会を、少しずつ、しかし確実に、形づくっているのです。
デザインには責任が伴う
デザインがこれほどの力を持つなら、そこには責任が伴います。デザインは、人を助けることも、害することもできるからです。
- 排除するデザイン:前に見た「長居できないベンチ」のように、特定の人を排除するデザインがある。アクセシビリティを欠いたデザインは、障害のある人や高齢者を締め出す
- 操作するデザイン:ダークパターン——解約させにくくする、不要なものを買わせる、依存を促す——といった、ユーザーの不利益になるデザインがある
- 偏りを埋め込むデザイン:標準的な体型や文化を前提にしたデザインが、それ以外の人を不便にする(データの偏りと同じ構造)
だから、デザイナー——そして、デザインを発注し、使う私たち——には、「このデザインは、誰を助け、誰を害するか」「望ましくない行動へ誘導していないか」を問う責任があります。デザインの力が大きいほど、その倫理的な責任も大きくなるのです。「技術的にできること」と「すべきこと」が違うように、「デザインでできること」と「すべきこと」も違います。
デザインで社会をより良く
デザインの力は、良い方向にも使えます。近年、社会課題の解決に、デザインの発想を活かす動きが広がっています。分かりやすい公共サービス、誰もが使える製品、行動を良い方向に促す仕組み、持続可能な製品設計。デザインは、単に便利で美しいモノを作るだけでなく、人々の暮らしを良くし、公正で持続可能な社会を作る道具になりうるのです。「ソーシャルデザイン」や「インクルーシブデザイン」といった言葉は、この方向を目指しています。
コースのまとめ
このコースで見てきたのは、デザインが、見た目ではなく問題解決であり、使いやすさを通じて人に寄り添い、そして社会を変える力を持つ、ということでした。デザインの目を持つと、当たり前だと思っていた身のまわりの世界が、「誰かが意図して作ったもの」として見えてきます。そして、その意図が、誰を助け、誰を害しているかを問えるようになる。これは、モノに使われるのではなく、モノを、そしてモノが作る環境を、批判的に読み解く力です。
ニュースで使う視点
製品デザイン、UI/UX、ダークパターン、ユニバーサルデザイン、ソーシャルデザイン——デザインに関わるニュースを読むときは、「このデザインは、人の行動をどう方向づけているか」「誰を助け、誰を害しているか」「その責任は果たされているか」を問うてください。
これで「デザインと日常」は修了です。デザインとは何か、使いやすさ、そしてデザインが社会を変える力——身のまわりのモノや仕組みを「デザインの目」で読み解くことで、当たり前の日常を、新しく、批判的に見る視点を得ました。私たちの世界は、無数のデザインの選択でできています。その選択を読める者は、世界をより深く理解し、より良いデザインを求めることができるのです。