「情報」を、科学する
私たちは「情報社会」に生きています。日々、膨大な情報をやりとりし、情報に囲まれて暮らしています。しかし、そもそも「情報」とは何でしょうか。それは、測ったり、扱ったりできるものなのでしょうか。このコースでは、デジタル世界のすべてを支える情報の科学(情報理論)を、数式に頼らず、考え方から学びます。20世紀半ば、情報を「量」として捉える発想が生まれ、それが今日のコンピュータ、インターネット、あらゆるデジタル技術の土台になりました。まず、その出発点——「情報を測る」という、驚くべきアイデアから始めましょう。
情報を「量」で測る
情報理論の、最も革命的なアイデアは、情報を「量」として測れる、というものです。では、情報の量(情報量)は、どう測るのでしょうか。文章の長さでしょうか。いいえ、もっと本質的な捉え方があります。
情報量とは、「その知らせが、どれだけ不確実性(分からなさ)を減らすか」で測られます。この考え方が、情報理論の核心です。例で考えましょう。
- 「明日も太陽が東から昇る」——これは、誰もが知っていることです。聞いても、何も新しく分かりません。だから、情報量は小さい(ほぼゼロ)
- 「明日、この地域に雪が降る」(真夏なら)——これは、予想外で、めったに起きません。聞くと、大きく認識が変わります。だから、情報量は大きい
つまり、めったに起きないこと、予想外のことほど、情報量が大きいのです。逆に、分かりきったことは、情報量が小さい。「情報とは、不確実性を減らすもの」——この定義によって、情報は、主観的な「意味」から切り離され、客観的に測れる量になりました。これが、情報を科学の対象にした、決定的な一歩でした。
ビット——情報の最小単位
情報を量として測るなら、その単位が必要です。情報の最小単位——それが、ビットです。
1ビットとは、「はい/いいえ」「0/1」のような、2択の情報1つ分にあたります。コインの裏表、電気のオン/オフ、YESかNOか——2つのうちどちらか、という最も単純な選択、それが1ビットの情報です。
なぜ、2択が基本なのでしょうか。それは、この単純な「0か1か」を組み合わせれば、あらゆる情報を表せるからです。
- 2ビットあれば、4通り(00, 01, 10, 11)を区別できる
- 3ビットあれば、8通り
- ビットを増やすほど、区別できる情報が倍々に増えていく
そして、驚くべきことに、文字も、画像も、音も、動画も、すべて突き詰めれば0と1の並び(ビット列)で表せます。あなたが今読んでいるこの文章も、スマホで見る写真も、聴いている音楽も、その正体は、膨大な0と1の並びなのです。デジタル(digital)とは、まさに、世界を「0か1か」の情報に変換して扱うことを意味します。
なぜ、この発想が世界を変えたのか
情報を、意味から切り離して「0と1のビットの量」として捉える——この抽象化が、なぜこれほど強力だったのでしょうか。
理由は、あらゆる種類の情報を、同じ土俵で扱えるようになったからです。文字も画像も音も、すべてビット列にしてしまえば、同じ方法で、保存し、送り、圧縮し、暗号化できます。種類の違う情報を、統一的に扱う——この発想が、コンピュータとインターネットという、現代文明の基盤を可能にしました。私たちのデジタル世界はすべて、「情報は量として測れ、ビットで表せる」という、この一つのアイデアの上に建っているのです。
ニュースで使う視点
データ量、通信速度、記憶容量——「ギガ」「ビット」といった言葉が出るニュースに触れるときは、その根底にある「情報はビットで測れる量だ」という発想を思い出してみてください。情報を量として捉える視点は、デジタル社会のあらゆる話題を理解する、共通の土台になります。次のレッスンでは、その情報を賢く扱う技術——圧縮と誤り訂正を見ます。