日本人は、何をどう考えてきたか
私たちは、日々、様々な判断をし、価値観にもとづいて生きています。その背景には、長い歴史の中で培われた、日本の思想があります。しかし、「日本思想」と聞くと、難しく、あるいは古臭く感じるかもしれません。このコースでは、日本の思想の流れを、神仏習合から近代まで、大きな見取り図として辿ります。それは、日本の文化や社会の深層を理解し、そして、私たち自身が無意識に前提としている考え方を、自覚的に捉え直す営みです。まず、日本思想全体を貫く、一つの大きな特質から見ていきましょう。
受け入れ、作り変える
日本の思想史を貫く、最も大きな特質は何でしょうか。それは、外来の思想を積極的に受け入れ、それを日本の状況に合わせて作り変え、既存のものと共存させてきた、という点です。
日本は、歴史を通じて、絶えず外から思想を取り入れてきました。
しかし、日本は、これらをそのまま受け入れたのではありません。日本の風土や、もとからあった考え方に合わせて、作り変え、独自のものにしていきました。そして、興味深いことに、新しい思想が来ても、古いものを捨てずに、共存させる傾向がありました。神道と仏教、儒教と仏教——異なる思想を、排除し合うのではなく、重ね合わせ、混ぜ合わせてきたのです。
この「受容と変容、そして共存」の姿勢は、日本思想を理解する、最も重要な鍵です。一つの絶対的な真理を掲げるのではなく、様々なものを柔軟に取り入れ、調和させる。これは、前に日本の宗教で見た「無宗教だが多くの宗教行事を行う」という、現代日本人の姿勢にも、通じています。
「和」という価値
日本思想の特質を語るとき、しばしば挙げられるのが、「和」という価値です。対立を避け、調和を重んじる。個人が突出するより、集団のまとまりを大切にする。この傾向は、古くから、日本の思想や社会のあり方に、繰り返し現れます。
もちろん、これを「日本人の変わらぬ本質」と、単純化するのは危険です。前に文化や歴史で学んだように、「国民性」を固定的に語ることには、注意が必要です。時代によって、地域によって、日本の思想も、多様で、変化してきました。しかし、大きな傾向として、調和を重んじ、鋭い対立や、徹底した論理的な追求よりも、バランスと共存を志向する面があったことは、多くの論者が指摘するところです。この特質は、長所(柔軟性、包容力)にも、短所(曖昧さ、同調圧力)にも、なりえます。
自分を、知るために
なぜ、日本思想を学ぶのでしょうか。それは、単に過去の知識を得るためではありません。最大の意義は、現代の私たち自身を、理解することにあります。
私たちが、無意識に「当たり前」としている、ものの見方、価値観、行動様式——それらの多くは、実は、長い日本思想の流れから、受け継がれたものです。「なぜ、日本では、はっきり意見を言うことがためらわれるのか」「なぜ、様々な宗教行事を、矛盾なく行えるのか」「なぜ、調和や空気が、これほど重んじられるのか」——こうした問いの答えの一端は、日本思想の歴史に、隠れています。
前に女性史や文化で学んだように、自分が立っている足場を知ることは、それを相対化し、自覚的に捉え直す力になります。日本思想を学ぶことは、日本人が、自分たちの思考の癖や前提を、鏡に映して見る営みなのです。そして、それを知ることで、私たちは、その良さを活かしつつ、限界を乗り越える道も、考えられるようになります。
ニュースで使う視点
日本社会の意思決定のあり方、価値観をめぐる議論、伝統と近代の摩擦——こうしたニュースに触れるときは、「この背景には、どんな日本思想の流れがあるか」を考えてみてください。日本思想の視点は、現代日本の社会現象を、その深層から理解する力になります。次のレッスンでは、日本思想の受容と変容の、最も鮮やかな例——神仏習合を見ます。