「働く」も市場で取引されている
野菜や株と同じように、労働力もひとつの市場で取引されている——この見方が、賃金や雇用のニュースを読む土台になります。需要と供給の考え方を「働く」に当てはめてみましょう。
労働市場では、登場人物の役割が直感と少し逆になります。労働力を欲しがる(需要する)のは企業、労働力を売る(供給する)のは働き手です。求人はモノを買いたいという需要の表明であり、求職はモノを売りたいという供給の表明です。この需要と供給のバランスで、賃金(労働の価格)と雇用量が決まっていきます。
賃金は「価格」だが、特別な価格
労働は普通の商品と違う点がいくつもあり、そこが労働経済学の面白さです。
- 売り物と売り手が切り離せない:労働力を売るとき、人間そのものがその場に行きます。だから労働条件や職場環境が価格(賃金)と同じくらい重要になります
- 下方硬直性:モノの値段は需要が減れば下がりますが、賃金は下げにくい。名目賃金の引き下げは働き手の強い抵抗を招くため、不況期には賃下げより雇用削減(失業)で調整されがちです
- 市場の外の力:最低賃金という法律の下限、労働組合との交渉、長期雇用の慣行など、純粋な需給だけでは決まりません
「人手不足なのに賃上げが鈍い」謎
近年よく報じられるこの現象も、労働市場の特殊性で読めます。需給だけなら人手不足は賃上げに直結するはずですが、現実には賃金の上がりにくさ(上方への鈍さ)、企業が値上げ=賃上げに慎重な心理、正社員を守るために非正規で調整する構造などが重なります。「需給」を出発点にしつつ、そこに乗る慣行や交渉力まで見るのが、労働のニュースを読むコツです。
次のレッスンでは、労働市場の「うまくいっていない部分」を映す指標——失業の読み方を学びます。