海は、止まっていない
海を眺めると、波はあっても、海そのものは、そこにじっとしているように見えます。しかし、実際には、海の水は、絶えず、地球規模で動き続けています。大きな流れ——海流が、地球を巡り、そして、海面は、潮汐(潮の満ち引き)によって、周期的に上下しています。前レッスンで見た巨大な海は、静的な水たまりではなく、動的なシステムなのです。この動きこそ、海が気候を調整し、地球のエンジンとして働く、その仕組みの核心です。海は、なぜ、どう動くのかを見ていきましょう。
海流——地球を巡る、水の道
海流とは、海の中の、大きな水の流れです。世界の海には、決まった向きに流れ続ける、巨大な「水の道」が、網の目のように走っています。日本の近海にも、暖かい水を運ぶ流れと、冷たい水を運ぶ流れがあり、気候や漁業に、大きな影響を与えています。この海流は、なぜ生まれるのでしょうか。主な要因は、二つあります。
- 風が、押す:地球には、決まった向きに吹き続ける大規模な風があります。この風が、海面を押し続けることで、表層の海流が生まれます。海の表面の流れは、いわば、大気の運動の相棒なのです
- 水の重さの、差:水は、冷たいほど、そして塩分が濃いほど、重くなります。重い水は沈み、軽い水は浮く。この重さの差が、海の深いところまで含めた、地球規模のゆっくりした大循環を、駆動しています。極地方で冷やされて沈んだ水が、深海を長い時間をかけて巡り、やがてまた表層へ戻ってくる——この壮大な循環は、千年単位の時間をかけて、地球を一巡りするとされます
つまり、海流は、太陽の熱と地球の自転が作る風と、温度・塩分による水の重さの差という、物理の力で駆動されています。そして、この流れが、熱を運び、栄養を運び、時に船を運んできました。海流は、地球の血流なのです。
潮汐——月が引っ張る海
海のもう一つの動きが、潮汐——毎日の、潮の満ち引きです。海辺では、海面が、一日のうちに周期的に上がったり(満潮)下がったり(干潮)します。この現象の主な原因は、意外なところにあります。月です。
- 月の引力が、地球の海水を、引っ張ります
- 月に面した側の海面は、引力で盛り上がります(反対側も、少し複雑な理由で盛り上がります)
- 地球が自転しているため、この「盛り上がり」の位置が地球上を移動し、各地の海面が、周期的に上下する
太陽の引力も、潮汐に影響します。月と太陽の引力が重なる時期には、満ち引きの差が大きくなり(大潮)、打ち消し合う時期には小さくなります(小潮)。
考えてみれば、これは、驚くべきことです。38万キロ彼方の月が、地球の海を、目に見えて動かしているのです。毎日の潮の満ち引きは、天体の引力という宇宙の力を、浜辺で直接観察できる、最も身近な宇宙現象なのです。潮汐は、漁業や航海にとって古くから重要な知識であり、現代では、潮の力で発電する試みもあります。
動きを知れば、海が読める
海流と潮汐——海の二つの動きを知ると、様々なニュースや現象が、つながって読めるようになります。
- なぜ、漂流物は、遠く離れた海岸に流れ着くのか(海流が運ぶ)
- なぜ、同じ緯度でも、海流によって気候が違うのか(次のレッスンで詳しく)
- なぜ、潮干狩りには「時刻」が大事なのか(潮汐のリズム)
- なぜ、ある海域は魚が豊かなのか(流れが栄養を運び、混ぜる)
海は、動いている——この一つの理解が、海をめぐる多くの現象の、共通の鍵なのです。次のレッスンでは、この海の動きが、地球の気候を、どう支配しているかを見ます。
ニュースで使う視点
海流の変化、漂流物、潮位、海の異変に関わるニュースに触れるときは、「海は、風と水の重さの差で流れ、月の引力で満ち引きする、動的なシステムだ」という理解を土台にしてみてください。海の動きを知る目は、気候、漁業、海運、災害——海に関わるあらゆるニュースの、読解力になります。次のレッスンでは、海と気候の深い関係を見ます。