気候の主役は、実は海
気候変動のニュースでは、大気中の二酸化炭素や気温が、主に語られます。しかし、地球の気候を、その土台で支配しているのは、実は海です。前レッスンまでで見た、巨大で、動き続ける海は、地球の気候の調整役として、働いています。海がなければ、地球の気候は、まったく別物だったでしょう。そして、気候変動を理解する上でも、海は、決定的な鍵を握っています。海と気候の深い関係を、読み解きましょう。
海は、地球の蓄熱装置
海が気候を調整する、第一の仕組みは、熱を蓄える力です。前に熱で学んだように、物質には、温まりやすさ・冷めやすさの違いがあります。そして、水は、非常に温まりにくく、冷めにくい物質です。
この性質を持つ水が、地球の七割を覆うほど大量にあると、何が起きるでしょうか。
- 夏や昼、海は、熱をゆっくり吸収し、気温の急上昇を、和らげます
- 冬や夜、海は、蓄えた熱をゆっくり放出し、気温の急降下を、和らげます
- つまり、海は、地球全体の気温の変化を、なだらかにする、巨大な緩衝装置なのです
海の近くの地域の気候が、内陸より穏やか(夏は涼しく、冬は暖かい)なのは、この海の緩衝作用のためです。地球規模でも、同じです。もし海がなければ、地球の昼と夜、夏と冬の温度差は、はるかに極端になっていたはずです。生命が住みやすい、この穏やかな気候は、海という蓄熱装置の、賜物なのです。
海流は、熱の配達人
第二の仕組みが、前レッスンで見た海流による、熱の輸送です。太陽の熱は、地球に不均一に降り注ぎます。赤道付近は熱く、極地方は寒い。この偏りをならすように、大気だけでなく、海流も、熱を運んでいます。
- 暖かい海流は、赤道付近の熱を、高緯度へと運ぶ
- 冷たい海流は、冷たい水を、低緯度へと運ぶ
- この地球規模の熱の再配分が、各地の気候を形作っています
ある地域が、緯度のわりに温暖なのは、近くを暖流が流れているから——といった例は、世界中にあります。深層まで含めた大循環は、千年単位の時間をかけて、地球の熱を、ゆっくりと配り続けています。海流は、地球の熱の配達人であり、その配達ルートが変わると、各地の気候も変わってしまうのです。
気候変動と、海
そして、現代の気候変動を理解する上で、海は、決定的に重要です。あまり知られていない事実ですが——
- 温暖化によって地球にたまった余分な熱の、大部分を吸収してきたのは、海です。海がこの熱を飲み込んでくれたおかげで、地上の気温上昇は、これでも和らげられてきました
- しかし、その代償が、進行しています。海水温の上昇。水温が上がると水は膨張し、また氷の融解も加わって、海面上昇が進みます。海面上昇は、低地や島々にとって、存続に関わる問題です
- 海水温の変化は、台風のエネルギー源にも関わります。暖かい海は、台風を強くします
- さらに、温度と塩分のバランスが変わると、海流の大循環そのものが変化し、気候をさらに大きく変える恐れも、指摘されています
つまり、海は、気候変動の緩衝役であると同時に、その変化が現れる現場であり、将来の変化を左右する増幅要因にもなりうるのです。ストックとフローで学んだように、海に蓄積された熱は、簡単には消えません。気候変動のニュースを読むとき、大気だけでなく、海に何が起きているかを見る——それが、問題の全体像を捉える鍵なのです。
ニュースで使う視点
海水温、海面上昇、異常気象、エルニーニョのような海の現象に関わるニュースに触れるときは、「海は気候の調整役であり、気候変動の熱の大部分を吸収している」という視点を持ってみてください。海から気候を読む目は、気候変動のニュースを、より深く、より正確に理解する力になります。次の最終レッスンでは、海と人間の関わり——恵みと課題を考えます。