私たちは、組織の中で生きている
会社、役所、学校、病院、NPO、政党、スポーツチーム——私たちの社会は、無数の組織でできています。私たちは、組織で働き、組織からサービスを受け、組織を通じて社会に関わっています。組織なしに、現代社会は一日も回りません。しかし、「組織とは何か」「なぜ組織はうまくいったり、機能不全に陥ったりするのか」を、じっくり考えることは、あまりありません。このコースでは、組織を社会学の視点で読み解きます。あらゆる組織に共通する力学を理解すれば、会社や役所、団体をめぐるニュースが、格段に深く読めるようになります。
なぜ、人は組織を作るのか
まず、根本的な問いから。なぜ、人は組織を作るのでしょうか。答えは、シンプルです。一人ではできないことを、成し遂げるためです。
一人の人間ができることには、限りがあります。しかし、多くの人が集まり、役割を分担し、協力すれば、個人には不可能な、大きな目的を達成できます。
- 大きな建物を建てる、複雑な製品を作る、広い地域にサービスを届ける
- 前に食の文明で見たように、分業は、文明そのものの土台でした
ここで鍵になるのが、前に経済学で学んだ分業です。それぞれが得意なことに専念し、成果を持ち寄る。うまく組織化すれば、ばらばらの個人の力の、単純な総和を超える成果が生まれます。1+1が、2ではなく、3にも4にもなる。これが、組織の力です。前に集合知で見た、多くの人の協力が個人を超える、その一つの形です。
組織を、組織たらしめるもの
では、ただ人が集まれば、組織になるのでしょうか。いいえ。烏合の衆と、機能する組織は、違います。組織が機能するには、いくつかの要素が必要です。
- 共通の目的:みなが、同じ方向を向いていること。「何のために集まっているのか」が共有されていなければ、力はばらばらになります
- 役割の分担(分業):誰が、何をするか。役割が明確でないと、重複や、抜け漏れが生じます
- 協力を調整する仕組み:分担した仕事を、ばらばらにせず、まとめ上げる仕組み。ルール、指揮系統、コミュニケーションの流れなどです
- 動機づけ:人々が、働く理由。報酬、やりがい、所属の感覚など。人が動かなければ、どんな仕組みも機能しません
これらが噛み合ったとき、多くの人の協力が、まとまった成果になります。組織とは、いわば、多数の人間の力を、一つの目的へと束ねる、社会的な技術なのです。
組織は、「個人の集まり」以上のもの
組織を理解する上で、大切な視点があります。それは、組織は、単なる個人の集まりではない、ということです。前にシステム思考で学んだように、組織は、個々のメンバーを超えた、独自の性質を持ちます。
- 組織には、構造があります。誰が誰に指示し、情報がどう流れるか。この構造が、組織の振る舞いを、大きく左右します
- 組織には、文化があります。「ここでは、こうするのが当たり前」という、暗黙の規範。これは、個人の意識を超えて、組織全体に染みついています
- メンバーが入れ替わっても、組織は続きます。個人を超えて、組織そのものが、一つの存在として振る舞うのです
だから、組織の問題を、「あの人が悪い」という個人の問題に還元すると、しばしば本質を見誤ります。前に犯罪社会学やシステム思考で見たように、問題は、個人ではなく、組織の構造や文化から生まれることが多いのです。この視点が、組織を読み解く、出発点になります。
ニュースで使う視点
企業、官庁、団体の動きや不祥事のニュースを読むときは、「これは、個人の問題か、それとも組織の構造や文化から生まれた問題か」を考えてみてください。組織を、個人の集まりを超えた一つの存在として捉える視点が、組織をめぐるニュースを、深く読む力になります。次のレッスンでは、組織が陥りがちな問題——官僚制の硬直を見ます。