経済ニュースの主役を理解する
経済ニュースの主役は、多くの場合企業(会社)です。決算、株価、新製品、合併、不祥事——企業をめぐる話題は尽きません。しかし、「そもそも会社とは何か」を改めて問うことは少ないでしょう。資本主義や投資で断片的に触れてきた企業を、このコースでは正面から理解します。まずは根本的な問いから。なぜ、会社は存在するのか。
市場があるのに、なぜ組織があるのか
奇妙な問いに聞こえるかもしれません。市場では、あらゆるものが取引できます。だとすれば、何かを作りたい人は、必要な作業を一つひとつ市場で発注すればよいはず。それなのに、なぜ人々は「会社」という組織を作り、従業員を雇い、継続的に協働するのでしょうか。
経済学者ロナルド・コースは、この問いに鮮やかな答えを出しました。取引費用です。市場で毎回取引しようとすると、相手を探し、価格を交渉し、契約を結び、履行を監視する——という手間とコストがかかります。単純な作業を毎回外部に発注していたら、この取引費用が膨大になる。それなら、人々を組織にまとめ、継続的な関係の中で協働させたほうが効率的です。会社とは、市場での取引費用を節約するための仕組みなのです。市場と組織は、経済を動かす二つの異なる調整のやり方であり、どちらが有利かは、取引費用の大きさで決まります。
株式会社という大発明
会社の形態の中でも、経済史を変えたのが株式会社です。これは、二つの画期的な仕組みを組み合わせています。
- 資本の結集:多数の人から少しずつ出資を集める(株式)。一人の大富豪でなくても、大勢の小口出資者から、巨大な事業に必要な資本を調達できる
- 有限責任:出資者が負う損失は、出資額までに限られる。会社が莫大な負債を抱えて倒産しても、株主は自分の全財産を失うことはない
この有限責任が、決定的でした。もし事業の失敗で全財産を失うリスクがあれば、誰もリスクある事業に出資しません。しかし損失が出資額までなら、思い切って投資できる。この仕組みが、大航海時代の交易から産業革命、そして現代の大企業まで、リスクある大事業への投資を可能にしました。投資で学んだ「株式=会社の所有権」の背景には、この大発明があるのです。
会社は、社会の中の存在
会社は、単なるお金儲けの道具ではありません。人々に雇用を提供し、社会に必要な財やサービスを生み出し、技術を進歩させ、税を納める。同時に、環境に負荷をかけ、時に不祥事を起こし、社会に影響を及ぼします。会社は、経済の主役であると同時に、社会の重要な一員なのです。だからこそ、「会社とは何か」「会社は誰のものか」という問いが、このコースの最後で重要になります。
ニュースで使う視点
企業の設立、上場、経営戦略、雇用——企業のニュースを読むときは、「会社は取引費用を節約する組織であり、リスクある事業を可能にする仕組みだ」という土台を思い出してください。次のレッスンでは、企業が活動する場である市場で、健全さを保つための重要なルール——競争と独占を見ます。