アズリテ
演劇と舞台の見方・ レッスン 2 / 4
人文科学 / 芸術・文学

悲劇と喜劇

読了目安 4/灯る概念:

泣かせる劇と、笑わせる劇

演劇には、古くから、二つの大きな型があります。悲劇喜劇です。人を泣かせ、感動させる悲劇。人を笑わせる喜劇。この二つは、古代ギリシャの時代から、演劇の両輪でした。なぜ、人は、悲しい物語を見て感動し、お金を払ってまで泣きたがるのでしょうか。そして、笑いには、どんな力があるのでしょうか。このレッスンでは、悲劇と喜劇という二つの型の、仕組みと力を読み解きます。それは、物語が人の心を動かす、その奥深い仕組みを知ることでもあります。

悲劇——苦しみを通じて、人間を見る

悲劇は、主人公が、破滅していく姿を描きます。避けがたい運命、あるいは、自らの欠点(高慢、嫉妬、盲目)によって、主人公は、苦しみ、転落し、しばしば死に至る。なぜ、こんな悲しい物語が、人を強く感動させるのでしょうか。不思議なことですが、そこには、深い仕組みがあります。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、悲劇の力を、こう分析しました。観客は、主人公の破滅を見て、恐れ(自分も同じ目に遭うかもしれない)と、憐れみ(かわいそうに)という、強い感情を体験する。そして、その感情を、劇の中で味わい尽くすことで、心が浄化される——これを、カタルシスと呼びました。悲劇は、いわば、感情の、安全な発散装置なのです。

しかし、悲劇の力は、それだけではありません。悲劇は、人間の条件——人間の弱さ、運命の過酷さ、避けられない限界——を、深く見つめさせます。

  • なぜ、立派な人物が、破滅するのか
  • 人間は、運命に、どこまで抗えるのか
  • 人間の欠点とは、何か

悲劇を見ることは、こうした、人生の根源的な問いに、感情を通じて、向き合うことです。だから、悲劇は、単に「悲しい話」ではなく、苦しみを通じて、人間とは何かを、深く見つめる形式なのです。人は、悲劇を見て泣くことで、自分自身の、そして人間全体の、深いところに触れるのです。

喜劇——笑いという、鋭い武器

一方、喜劇は、人を笑わせます。勘違い、すれ違い、こっけいな人物、機知に富んだやりとり——喜劇は、私たちを楽しませ、笑わせてくれます。しかし、喜劇の力も、単なる娯楽にとどまりません。笑いは、実は、鋭い武器にもなるのです。

喜劇は、しばしば、権威や社会の矛盾・おかしさを、笑いの力で暴き、批判します

  • 偉ぶった権力者を、こっけいに描いて、その虚栄を暴く
  • 社会の矛盾や、人間の愚かさを、笑いのめす
  • まじめに批判すると角が立つことも、笑いにすれば、鋭く突ける

これは、笑いの、特別な力です。笑いには、権威を引きずり下ろし、当たり前とされているものを、疑わせる力があります。前にレトリックで見た説得とは違う、笑いという独特の方法で、喜劇は、社会を映し、問い直すのです。だから、歴史上、喜劇や風刺は、時に権力に恐れられ、弾圧されることさえありました。笑いが、それだけの力を持っていたからです。喜劇は、娯楽であると同時に、社会を批判的に見る目を、笑いという形で、私たちに与えてくれるのです。

悲劇と喜劇——人生の、二つの見方

悲劇と喜劇は、対照的でありながら、実は、人生の二つの見方を、表しているとも言えます。

  • 悲劇は、人生を、その深刻さ、苦しみ、限界の面から見る。人間の運命を、重く、真剣に見つめる
  • 喜劇は、人生を、そのおかしさ、こっけいさ、矛盾の面から見る。人間の愚かさを、笑い飛ばし、相対化する

面白いことに、同じ出来事も、悲劇として見ることも、喜劇として見ることも、できます。「悲劇と喜劇は、紙一重」と言われるのは、このためです。人生には、涙を誘う面と、笑いを誘う面が、常に共存しています。悲劇と喜劇の両方を知ることは、人生を、深刻さと軽やかさの、両面から見る力を、与えてくれます。時に真剣に見つめ、時に笑い飛ばす——この二つの視点を持てることが、演劇が私たちに贈る、豊かな知恵なのです。

ニュースで使う視点

風刺、コメディ、そして悲劇的な出来事の報道に触れるときは、「悲劇は人間の条件を見つめさせ、喜劇は笑いで社会を批判する」という、二つの型の力を思い出してみてください。とりわけ、政治風刺やコメディが持つ、権威を問い直す力に注目すると、笑いの社会的な意味が見えてきます。次のレッスンでは、世界各地の、多様な演劇の伝統を見ます。

理解度チェック

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Q1古代ギリシャ以来の「悲劇」が、人の心を強く動かすとされる仕組みとして、適切なものはどれですか?
Q2「喜劇」が果たす役割として、最も適切なものはどれですか?

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