「働いていない」とされた働き
前レッスンで、女性の活動が記録に残りにくかったと述べました。その典型が、労働です。歴史の中で、女性たちは絶えず働いてきました。しかし、その多くが「働き」として数えられてこなかった。家事、育児、介護、家族の世話、家業の手伝い——これらは、社会を支える不可欠な働きでありながら、しばしば「労働」とはみなされませんでした。なぜでしょうか。この問いは、経済やジェンダーを考える上でも、深い意味を持ちます。
賃金が払われない、数えられない
女性の労働が「見えない」ものにされてきた仕組みには、いくつかの理由があります。
- 賃金が支払われない:家事や育児は、家庭の中で無償で行われます。市場で取引されないため、「経済活動」とみなされにくい
- 統計に数えられない:GDPなどの経済統計は、市場で取引されるものを中心に測ります。無償の家事労働は、その計算に入りません。もし家事を外部化して賃金換算すれば、莫大な額になるにもかかわらず
- 「当たり前」とされる:女性が担うのが当然とされ、価値ある働きとして意識されにくかった
こうした働き——次の世代を育て、働き手の生活を支える労働——は、再生産労働やケア労働と呼ばれます。社会が回るために絶対に必要でありながら、経済の表舞台では「見えない」ものにされてきた。この「見えない労働」への注目は、女性史が経済の見方そのものに投げかけた、鋭い問いなのです。
役割分担は、変わってきた
「男は外で働き、女は家を守る」——こうした性別による役割分担を、生まれつき決まった自然なものだと思う人がいます。しかし、歴史を見ると、それが時代や社会によって大きく変化してきたことがわかります。
- 農業社会では、女性も男性とともに、農作業という「生産労働」の主要な担い手でした
- 産業化が進むと、工場で働く女性が大量に現れました。繊維産業などは、女性労働者に支えられていました
- 戦争のときには、男性が戦地に行き、女性が工場や社会を支える働き手になりました。そして戦争が終わると、「家庭へ戻れ」とされた
つまり、「女の仕事」「男の仕事」の中身は、社会の必要に応じて、繰り返し塗り替えられてきたのです。これは、ジェンダー(社会的性別)が歴史的・社会的に作られることの、力強い証拠です。「昔から決まっていた」と思われがちな役割分担は、実は、それほど固定的ではなかったのです。
なぜ、これが教養なのか
この視点は、現代の議論に直結します。家事・育児・介護をめぐる負担、働き方、ケアの価値——これらは今も、社会の大きな課題です。「見えない労働」の歴史を知ることは、何を『労働』や『価値』として数えるのかという、私たちの社会の前提を問い直す力になります。数えられていないものにこそ、大切な価値が隠れている——それを見抜く目です。
ニュースで使う視点
家事・育児・介護の負担、賃金格差、ケア労働の待遇、経済統計——これらのニュースを読むときは、「どんな働きが数えられ、どんな働きが数えられていないか」「役割分担は自然か、それとも作られたものか」を問うてください。次のレッスンでは、女性たちが自らの——権利を求めた歴史を見ます。