東アジアの美の、源流
前レッスンで、東洋美術の独特の見方を学びました。その東洋美術、とりわけ東アジアの美術の、大きな源流の一つが、中国美術です。長い歴史を持つ中国文明は、絵画、書、陶磁器など、様々な分野で、極めて高度な美術を発展させました。そして、そこで生まれた様式や美意識は、日本や朝鮮半島など、東アジア全体に、大きな影響を与えました。中国美術を知ることは、東アジアの美の、共通の土台を理解することです。このレッスンでは、中国美術の世界を、その精神とともに、見ていきましょう。
山水画——自然に、理想を見る
中国絵画を象徴するのが、山水画です。山や水、自然の風景を描く絵画。中国美術では、この山水画が、極めて高い地位を占めました。人物画よりも、山水画のほうが、格が高いとされることさえありました。なぜ、自然の風景が、これほど重んじられたのでしょうか。
その背後には、東アジアの、深い自然観があります。中国の思想——道教や、自然と一体になる哲学——において、自然は、単なる風景や背景ではありませんでした。
- 自然は、宇宙の理(ことわり)を、宿すもの
- 山や水の中に、道(タオ)——世界の根本原理——が、現れている
- 自然に親しみ、その中に身を置くことは、精神を高める営み
だから、山水画は、単に美しい景色を描くのではなく、自然の中にある、宇宙の理や、精神性を、表現するものでした。画家は、目の前の風景を、そっくり写すのではなく、前レッスンで見たように、その本質や、理想を、描こうとした。理想の山水を、心の中に描き、それを絵にする。だから、中国の山水画には、現実には存在しない、しかし、より本質的な、自然の姿が描かれることがあります。山水画は、自然を描きながら、実は、描き手の精神と、世界観を、描いているのです。
筆と墨の、精神
中国美術のもう一つの核心が、筆と墨です。中国では、絵画と、書(文字を書く芸術)が、深く結びついていました。どちらも、筆と墨を使い、その線の質が、決定的に重要とされたのです。
- 一本の線に、描き手の精神、修養、人格が、現れると考えられた
- 墨の濃淡だけで、色彩以上の、豊かな表現を生み出す
- 素早く、一気に描く線に、生命力(気)を込める
これは、前に見た「少ない筆で、多くを語る」美意識と、深く結びついています。西洋美術が、油絵の具を重ね塗りして、じっくり作り上げるのに対し、中国の水墨画は、しばしば、一回性——一気に描き上げる、やり直しのきかない線——を、重んじました。この点は、前に演劇のライブ性で見た、「一回限りのかけがえのなさ」とも、どこか通じます。筆と墨の芸術は、技術であると同時に、描き手の精神の表現だったのです。
東アジアへの、広がり
中国で発展したこれらの美術——山水画、水墨、書、そしてその背後にある美意識——は、東アジア全体に、大きな影響を与えました。前にアジアの歴史で見たように、文化は、地域を越えて伝わります。美術も、例外ではありません。
- 中国の絵画の様式や技法が、日本や朝鮮半島に伝わった
- それぞれの地域で、中国美術を土台としながら、独自の展開を遂げた
- こうして、東アジアには、中国を共通の源流の一つとする、豊かな美術の世界が、広がった
だから、中国美術を知ることは、東アジア全体の美を理解する、土台になります。次のレッスンで見る日本美術も、この中国美術の影響を受けつつ、独自の美を、育てていきました。共通の源流を持ちながら、各地で異なる花を咲かせる——これは、前に食文化で見た、文化の伝播と変容の、美術版なのです。
ニュースで使う視点
中国美術、水墨画、書、東アジアの美術に触れるときは、「これは、自然や精神をどう捉える美意識から生まれたか」「東アジア共通の美の伝統と、どうつながるか」を考えてみてください。中国美術の視点は、東アジアの美の源流を理解し、その精神性を味わう力になります。次のレッスンでは、その影響を受けつつ独自に展開した、日本美術を見ます。