資本主義が「壊れた」とき
前レッスンで、拡大し続ける資本主義を見ました。しかし1929年、その資本主義が、突然「壊れた」ように見える出来事が起きます。世界恐慌(大恐慌)です。株価の大暴落に始まり、世界中で企業が倒産し、失業者があふれ、それが何年も続きました。この危機は、経済に対する考え方——そして政府の役割——を、根本から変えました。経済史の最大の転換点の一つです。
「市場は自動回復する」の崩壊
大恐慌以前、経済学の主流は、「市場に任せれば、自動的に均衡が回復する」という考えでした。不況が来ても、価格や賃金が調整されて、やがて自然に回復する。だから政府は、経済に手を出すべきでない、と。
ところが、大恐慌は、この前提を裏切りました。不況は「一時的」どころか、何年も続く大量失業として居座ったのです。市場は、自動的には回復しませんでした。「見えざる手」に任せていれば、人々が苦しみ続ける——この現実が、経済学者たちに重い問いを突きつけました。市場は、本当に自動回復するのか。政府は、本当に何もすべきでないのか。
ケインズの革命
この問いに、革命的な答えを出したのが、経済学者ジョン・メイナード・ケインズでした。彼の洞察は、こうです。不況は、「需要の不足」から生じる。
考えてみましょう。不況になると、人々は将来が不安で、お金を使わなくなります。消費が減ると、企業の売上が減り、企業は人を解雇する。失業した人はさらにお金を使えなくなり、需要がもっと減る——という悪循環(デフレスパイラル)に陥ります。民間の需要が不足しているのが、不況の正体だ、と。
ならば、処方箋は明確です。民間が使わないなら、政府が使えばいい。 政府が支出を増やし(公共事業など)、需要を人為的に作り出す。そうすれば、企業の売上が回復し、雇用が生まれ、人々がまたお金を使い始め、悪循環が好循環に転じる。これが、財政政策による景気対策の理論的な土台です。アメリカのニューディール政策は、この方向の試みでした。
政府の役割が変わった
ケインズ革命の意義は、経済理論を超えています。それは、政府の役割を、根本から変えたのです。それまで「経済に手を出すべきでない」とされた政府が、「経済を安定させる責任を負う」存在になった。景気が悪ければ支えるのが、政府の仕事になったのです。これは、戦後の経済運営の基本的な考え方になり、現代の財政政策や中央銀行の景気対策につながっています。
もちろん、ケインズの考えにも批判や限界があります。政府支出の拡大は財政赤字を生み、「政府はどこまで介入すべきか」は今も論争が続きます。しかし、「市場は万能でも、政府は無力でもない。両者のバランスをどう取るか」という現代経済の中心的な問いは、この大恐慌とケインズ革命から始まったのです。
ニュースで使う視点
景気対策、財政出動、政府の経済介入、公共事業——これらのニュースの背景には、「市場は自動回復せず、政府が需要を支える役割を持つ」というケインズ以来の考えがあります。同時に、「政府の介入はどこまで正当か」という論争も、ここに根があります。次のレッスンでは、この枠組みの下で訪れた戦後の繁栄と、その終わりを見ます。