「黄金時代」の到来
大恐慌とケインズ革命を経て、第二次大戦後の先進国は、歴史的な繁栄の時代を迎えました。しばしば「資本主義の黄金時代」と呼ばれる、約四半世紀の高成長です。日本の高度経済成長も、この時期にあたります。しかし、この繁栄はやがて終わり、経済の考え方が再び転換します。現代経済の直接の前史となる、この浮き沈みを見ていきましょう。
なぜ繁栄したのか
戦後の高成長は、複数の条件が重なって生まれました。
- 復興需要:戦争で破壊されたものを作り直す、巨大な需要があった
- 技術革新:新しい技術と大量生産が、生産性を飛躍させた
- ケインズ的な安定:政府が景気を支えることで、大恐慌のような破局的な不況が避けられた
- 社会保障の充実:福祉国家が整い、人々の生活が安定し、消費が支えられた
- 国際経済秩序:自由貿易と安定した国際通貨の枠組みが、成長を後押しした
この時代、「経済は成長し続け、生活は年々豊かになる」ことが、当たり前の実感でした。政府が経済を安定させ、成長の果実が分配され、中間層が厚くなる——ケインズ的な「大きな政府」と資本主義が、うまく調和した時代だったのです。
黄金時代の終わり
しかし、1970年代、この黄金時代は行き詰まります。転機となったのが、石油危機でした。原油価格の急騰が、経済に衝撃を与えます。そして、それまで経済学が説明できなかった現象が起きました。スタグフレーション——不況(スタグネーション)と物価高(インフレーション)が、同時に進行したのです。
これは、ケインズ的な処方箋にとって難問でした。不況なら政府支出で刺激すべきですが、それは物価をさらに押し上げてしまう。物価を抑えれば、不況が深まる。ケインズ経済学は、不況と物価高が同時に来る事態を、うまく扱えなかったのです。「政府が経済を管理できる」という戦後の自信が、揺らぎました。
新自由主義への転換
この行き詰まりの中で、対抗する経済思想が台頭します。新自由主義です。「政府の介入が経済を歪めている。市場の力を信頼し、政府の役割を小さくすべきだ」という考え方です。ケインズ革命が「大きな政府」へ振れたのに対し、今度は「小さな政府」へと、振り子が戻ったのです。
1980年代以降、多くの国で、規制緩和、民営化、減税、そしてグローバル化が進みました。これは経済に活力をもたらした面がある一方、格差の拡大や、グローバル化の痛みも生みました。ここで重要なのは、「大きな政府か、小さな政府か」は、どちらかが絶対的に正しいのではなく、時代の課題に応じて振り子のように揺れてきた、ということです。大恐慌はケインズを、スタグフレーションは新自由主義を呼んだ。経済思想は、その時々の現実への応答として、変化してきたのです。
ニュースで使う視点
規制緩和 対 政府の役割、大きな政府 対 小さな政府、格差と成長——現代の経済論争を読むときは、「これは戦後の振り子(ケインズ→新自由主義→…)のどの局面か」という歴史的な視点を持ってください。今の議論は、この長い揺れの続きなのです。次の最終レッスンでは、その振り子の先にある、現代資本主義の課題を考えます。