数字は うそをつかないが、うそつきは数字を使う
統計は世界を知るための強力な道具です。しかし同じデータでも、見せ方ひとつで正反対の印象を作れます。ここでは、数字を読むときの代表的な落とし穴を3つ紹介します。
落とし穴1:「平均」のわな
「平均年収800万円の会社」と聞くと、羽振りの良い職場を想像します。しかし社員9人が年収400万円、社長1人が4,400万円でも、平均は800万円になります。
平均(算術平均)は外れ値に強く引っ張られるのです。分布が偏っているときは、データを小さい順に並べた真ん中の値である中央値のほうが実態に近いことがよくあります。年収、貯蓄額、住宅価格など、上位に極端な値があるデータでは、平均と中央値が大きくずれます。
「平均」と聞いたら「中央値は?」と問い返す。これだけで数字への解像度が一段上がります。
落とし穴2:グラフのトリック
データが正しくても、グラフは印象を操作できます。
- 軸の切り取り:縦軸を90〜100に絞れば、1%の変化が崖のように見える
- 期間の選び方:都合の良い期間だけを切り取れば「右肩上がり」が演出できる
- 面積のごまかし:高さ2倍の絵を幅も2倍にすると、面積は4倍に見える
グラフを見たら、デザインの印象より先に軸の目盛り・単位・期間を確認する。地味ですが、これが最強の防御です。
落とし穴3:誰に聞いたのか(サンプルの偏り)
「利用者の95%が効果を実感!」という広告を考えてみましょう。仮に数字が本物でも、問題は誰に聞いたかです。効果がなかった人はとっくに使うのをやめ、アンケートには答えていません。残った満足者だけを調べれば、高評価になるのは当然です。
これは生存者バイアスと呼ばれる偏りの一種です。戦闘機の帰還機の弾痕を調べて装甲を厚くする場所を決めようとした話が有名です。本当に補強すべきは、帰還できなかった機体が撃たれた場所——つまりデータに現れなかった部分でした。
数字に強い人の3つの質問
統計を見たら、この3つを自問してみてください。
- その「平均」は分布のどこを見ているのか?
- グラフの軸と期間は公平に選ばれているか?
- データに含まれていない人は誰か?
数字を恐れず、数字を鵜呑みにしない。それが統計リテラシーの目指す地点です。