「平和」とは何か
このコースの締めくくりは、最も前向きな、しかし最も難しい問いです。平和は、どうすればつくれるのか。 戦争の原因、核抑止、戦争のルールを学んできました。最後に、戦争を防ぎ、平和を築く積極的な営みを考えます。その前に、そもそも「平和」とは何かを問い直す必要があります。
消極的平和と積極的平和
平和研究者ガルトゥングは、平和を二つに区別しました。この区別が、平和を考える出発点になります。
- 消極的平和:直接的な暴力、つまり戦争や殺し合いが「ない」状態。これは平和の最低条件です
- 積極的平和:単に戦争がないだけでなく、構造的暴力——貧困、差別、抑圧、格差といった、人々を苦しめ、可能性を奪う社会の構造——もない状態
なぜこの区別が重要なのでしょうか。戦争がなくても、人々が貧困や差別で苦しみ、尊厳を奪われているなら、それは真の平和とは言えない。そして、こうした構造的な不正義こそが、しばしば次の戦争の火種になります。だから、持続的な平和のためには、戦争をなくすだけでなく、その根にある不正義に取り組む必要がある——これが積極的平和の思想です。平和は、正義と深く結びついているのです。
平和構築という長い営み
戦争が終わった後、平和を定着させる営みを平和構築と呼びます。これがまた、極めて難しい。停戦は、平和の始まりにすぎないからです。紛争後の社会には、山積みの課題があります。
- 対立の根本原因の解消:戦争を生んだ利害・恐怖・不正義を解きほぐす。放置すれば、戦争が再発する
- 社会・経済の再建:破壊されたインフラ、崩壊した経済、機能しない統治機構を立て直す
- 和解:最も難しい。互いに傷つけ合い、憎しみを抱えた人々が、同じ社会で共に生きていけるようにする。加害と被害の記憶をどう扱うか
停戦させることより、こうした平和構築のほうが、はるかに長く困難です。国連の平和維持活動も、この難題に取り組んでいますが、成功も失敗もあります。平和は、勝ち取って終わりではなく、育て続けるものなのです。
平和を支える仕組み
戦争を防ぐために、人類が積み上げてきた仕組みもあります。国際的なルールと機関、経済的な相互依存(戦えば互いに損をする関係)、民主主義の広がり(民主国家同士は戦争しにくいという議論)、対話と信頼醸成。これらは万能ではありませんが、安全保障のジレンマの悪循環を和らげ、戦争のハードルを上げます。平和は、祈るだけでは訪れません。それを支える具体的な仕組みを、地道に作り、維持する営みが必要なのです。
一人ひとりにできること
平和は、遠い国際政治の話だけではありません。偏見を減らし、異なる立場と対話し、扇動的な情報を鵜呑みにせず、敵味方の単純な物語を疑う——これらは、市民一人ひとりが平和に貢献できる営みです。戦争は、しばしば人々の恐怖や憎しみの動員から始まります。その動員に抗う知性と態度こそ、アズリテが育てようとしてきたものであり、平和の基礎体力なのです。
ニュースで使う視点
停戦、和平交渉、平和構築、紛争予防——平和に関わるニュースを読むときは、「これは消極的平和(戦争の停止)か、積極的平和(構造的不正義の解消)まで見ているか」「戦争の根本原因に取り組んでいるか」を問うてください。
これで「戦争と平和を考える」は修了です。戦争の原因、核抑止の逆説、戦争のルール、平和の作り方——人類最大の難題を、感情や単純な善悪を超えて、構造で考える力を得ました。この重いテーマに冷静に向き合えることは、平和を願う市民の、最も大切な教養の一つです。