「年金の運用で41兆円の黒字」と聞くと、年金の不安が消えたように感じるかもしれません。逆に大赤字の年には「年金が溶けた」という見出しが躍ります。この種のニュースを落ち着いて読む鍵は、制度と運用の両方の仕組みを知っておくことです。
まず前提として、日本の公的年金の主役は、現役世代の保険料をそのまま高齢者に渡す「賦課方式」です。GPIFが運用する約294兆円の積立金は給付の主財源ではなく、少子高齢化で保険料収入が細る将来に備えるバッファーにあたります。だから単年の運用成績が、来年の年金額を直接動かすわけではありません。
次に41兆円という数字の中身です。内訳を見ると、国内株式と外国株式で約37兆円の黒字を稼ぎ、円安が外国資産の円換算額を膨らませました。一方で国内債券は3.7兆円の赤字。日銀の利上げで金利が上がると、手持ちの債券の価格は下がる——株式と債券の値動きの原理どおりの結果です。
そして最大の読みどころは「歴代2位」の裏側です。高い収益は高いリスクを取った結果であり、同じポートフォリオは市況が逆回転すれば大きな赤字も出します。実際、GPIFには単年で十数兆円規模の赤字を出した年もあります。評価すべきは単年の勝ち負けではなく、長期の平均リターンが年金財政の想定を上回っているかどうか。
運用実績の発表は毎年7月に繰り返される「型」のニュースです。黒字の年も赤字の年も、「単年の数字か、長期の平均か」を最初に問う癖をつけておくと、見出しに振り回されなくなります。