偽情報への対策は、長らく「受け取る側が見抜く」話でした。不自然な影、指の本数、話がうますぎる——そうした見分け方が共有され、私たちは目を鍛えるよう求められてきました。EUの新しいルールは、その重心を反対側へ移します。作る側・出す側に名乗らせるのです。
8月2日から適用されるEU AI法の第50条は、大きく4つを求めます。人と直接やり取りするAI(チャットボットなど)は、相手にAIだと伝えること。生成AIが作った文章・画像・音声・動画には、機械が読み取れる形の標識を残すこと。感情の推定や生体情報による分類を使うなら、対象になる人に知らせること。そしてディープフェイクや、公共の関心事について公表するAI生成の文章は、そうだと開示すること。欧州委員会は適用まで2週間を切った7月20日、これをどう運用するかのガイドラインを確定させました。違反には最大1500万ユーロ、または全世界売上高の3%という制裁金が控えています。
目のつけどころは「機械可読」という条件です。人向けの「AI生成」ラベルは、切り抜けば消えます。そこで狙うのは、電子透かしやメタデータのように、検索エンジンやSNSの側が自動で判別できる印を残すこと。個人の目に頼るのをやめ、流通の途中で機械に仕分けさせる発想です。もちろん難しさは残ります。標識は加工で壊れることがあるし、誰でも改変できるオープンソースのモデルにどう守らせるかは重い課題です。
例外の置き方にも、考えが表れています。人間が編集責任を負って公表する報道には、AI生成テキストの開示義務がかかりません。責任を負う人がいるなら、ラベルより責任のほうが強い——そういう線の引き方です。
持ち帰れる読み方はこうです。AIをめぐるルールのニュースを見たら、「誰に義務を課したか」をまず確かめること。見る側か、作る側か、配る側か。義務の宛先が分かれば、そのルールが現実に何を変えて、何を変えないままにするのかの見当がつきます。