家を建てるとき、その土地の地盤が十分に固いかどうかを、施主が自分でスコップを持って確かめるわけにはいきません。だから専門の会社が調査し、報告書という形で「大丈夫です」と保証する。今回偽られたのは、まさにその保証でした。大和ハウスの子会社が、実際には調べていないデータを足したり、別の現場の数値を流用したりして、12年余りで816件の報告書を不適切に作っていた——多くは、地盤を「実際より良く見せる」方向の細工だったといいます。
この出来事の芯をつかむのに効くのが、情報の非対称性という見方です。取引する二者のうち、中身をよく知るのは売り手・作り手の側で、お金を払う側は簡単には確かめられない。地盤調査はその典型で、固さを知るのは調査会社、確かめられないのは施主です。この片寄りがあるからこそ、「どうせ分からないだろう」という誘惑が生まれる。担当者の動機が「業務量が多く、手間を省いた」と説明されているのは、確かめられなさに寄りかかった手抜き、という構図をよく表しています。
怖いのは、被害が再調査の必要な19件にとどまらないことです。施主が自分で確かめられない世界では、第三者の検査が「お墨付き」として社会の信頼を支えています。そのデータが偽られると、崩れるのは一軒一軒の安全だけでなく、「検査を通ったのだから大丈夫」という前提そのもの。大和ハウスが弁護士による外部委員会を設け、組織的な関与がなかったかまで調べようとするのは、揺らいだのが個人の不正か、それとも仕組みへの信頼か、を見極めなければならないからです。
持ち帰れる読み方はこうです。データ改ざん、品質偽装、検査不正、産地の偽り——この種のニュースを見たら、「買い手が自分では確かめられない何を、誰が保証していたのか」を探してください。偽られたのがその「お墨付き」なら、それは一件の嘘を超えて、市場の信頼のインフラへの裏切りです。そして「では、この市場では何が品質を担保しているのか」と問い直す癖がつくと、認証・評判・保証といった、ふだん意識しない仕組みの大切さが見えてきます。