「量子コンピューター」と聞くと、まったく新しい未知の機械を思い浮かべるかもしれません。ですが今回の発表でおもしろいのは、日立が選んだのが半導体(シリコン)という、いまのパソコンやスマホの頭脳とまさに同じ材料だ、という点です。
量子コンピューターには、じつは作り方がいくつもあります。極低温に冷やした超伝導、真空に閉じ込めたイオン、光を使うもの——各社・各国が別々の方式に賭けている、いわば群雄割拠の段階です。そのなかでシリコン方式が狙うのは、すでにこの世にある半導体の製造技術と設備を、できるだけ流用すること。世界は何十年もかけて半導体を微細に、大量に作る道を舗装してきました。その舗装路の上に量子計算を乗せられれば、量産や集積で先行できるかもしれない——技術は、まっさらな更地より、積み重ねてきた土台の上で進みやすいのです。
ではなぜ、それでもまだ「研究開発」なのか。発表が主眼に置くのは「量子ビットを安定して動かすチップ技術」です。ここに量子計算の最大の難所があります。量子の重ね合わせという状態はおそろしく繊細で、わずかな熱や振動、電磁的な乱れで簡単に崩れてしまう。計算の途中で状態が壊れれば、答えは狂います。だから「速さ」や「量子ビットの数」以前に、いかに乱さず、長く保つかが問われる。今回の枠組みが2029年3月末までという期限つきの、しかも国(NEDO)の支援を受けた研究段階なのは、ここがまだ挑戦の途中だからです。
持ち帰れる読み方はこうです。量子コンピューターのニュースを見たら、「何量子ビットか」「どこの会社か」より前に、「どの方式で、エラーをどう抑えようとしているのか」を探してみてください。派手なビット数の数字より、安定性(誤りの少なさ)への言及のほうが、実用化への距離をずっと正直に語ります。方式の競争は、速さ比べではなく、まず「壊れにくさ」比べなのです。