「人は本来、損得で動く。親切は後から教わって身につけるもの」——そんな通念を、静かにひっくり返す研究です。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスなどのチームは、3〜10歳の子ども537人に、分け合う・正直に言う・相手を助けるといった場面での選択を課しました。ポイントは、半数には「すぐ決めて」と時間の圧をかけ、もう半数には「よく考えて」と時間の余裕を与えたこと。とっさの判断(直感)と、じっくり考えた判断(熟慮)を分けて見たわけです。
結果は意外でした。3〜4歳では、すぐ決めた子のほうが、考えた子より協力的で正直だった。つまり幼い子の親切は、考えた末の結論ではなく、先に来る直感だったのです。そして9〜10歳になると、両者の差は消えていきます。熟慮する子も、直感と同じくらい親切を選ぶようになる——親切が「考えても選ぶ、その子の構え」へと育っていく。
ここで効くのが、人の行動を「速い判断」と「遅い判断」の二層で読む行動経済学の発想です。私たちはつい、協力や親切を「損得を計算した上での選択」と考えがちですが、この研究はその順序が逆かもしれないと示します。まず直感が親切を選び、理性が後から追いつく。
持ち帰れる読み方はこうです。「人は結局トクで動く」という前提でニュースを読むと、寄付や協力や助け合いが「裏に打算があるはず」と見えてしまう。けれど、直感的な向社会性という別の駆動を一つ加えておくと、なぜ見返りもないのに人が助け合うのか、というニュースが読めるようになります。善さは理性で組み立てる前に、もう芽生えているのかもしれません。