「クラウド」と聞くと、どこか遠い上空でデータがふわふわ漂っているようなイメージを持つかもしれません。でも実際には、あなたが海外のサイトを見るとき、そのデータの大部分は深い海の底を通っています。総務省は2027年度予算で、この海底ケーブルを敷く専用の船「敷設船」を日本企業が確保できるよう、1000億円規模の支援を検討していることが分かりました(日本経済新聞、8月25日)。
インターネットの仕組みを物理から見ると、大陸と大陸をつなぐ国際通信の大部分は、海底に張り巡らされた光ファイバーケーブルが担っています。このケーブルを敷いたり修理したりできる船は世界に数えるほどしかなく、建造には数百億円規模の投資と長い年月がかかります。記事によれば、この敷設船は円安や資材高で調達費用が高騰しており、近年は中国勢の造船・保有シェアの拡大も目立つといいます。AIの普及で通信量そのものが増え続ける中、日本が自前の船を確保できなければ、通信インフラの根幹を他国に委ねることになりかねません。
ここで働いているのは、地政学と同じ発想です。地政学は「動かせない地理的条件が、国家の戦略を長く左右する」という視点でしたが、海底ケーブルにもよく似た構造があります。ケーブルが通る海域、それを敷設・保守できる船の数、その船を持つ国——これらは一朝一夕には変えられない物理的な制約です。だからこそ政府は、調達費用の半額程度を補助する案まで検討し、経済安全保障の課題として扱っているのです。
半導体が「戦略物資」として各国の補助金競争の的になったのと、構図はよく似ています。目に見えない「クラウド」を支えているのは、結局のところ、船と海底ケーブルという極めて重たい現実です。デジタルのニュースを読むときは、その裏にどんな物理インフラが横たわっているかを一度想像してみると、政府の投資判断の意味が見えてきます。