去年は「コメがない」と店頭から棚が消え、価格が跳ね上がりました。ところが2026年産の新米では、様相が一変しています。JAが農家にあらかじめ支払う「概算金」(収穫前の仮払い金で、その年のコメ価格の先行指標になります)が、全国各地で大きく下がっているのです。新潟県では前年比38%減、岩手県では現行の概算金の仕組みになった2015年以降で最大の下げ幅になりました(共同通信、8月20日)。
なぜここまで急に「不足」から「余り」へ振れたのか。答えは需要と供給の基本にあります。去年の品薄と高値を見た農家は、今年こそはと作付けを増やしました。加えて政府の備蓄米放出も重なり、コメの民間流通在庫量は6月末時点で243万トンと、過去最多に膨らんでいます。需要が急に増えたわけではないのに、供給だけが大きく右へ動いたのです。同じ「買いたい量」に対して「売りたい量」が増えれば、価格が下がって当然という、教科書どおりの調整が起きています。
この振れ幅の大きさは、農業ならではの事情も映しています。工場の生産量ならすぐ調整できますが、コメは種をまいてから収穫まで数か月かかります。だから農家は「今年の価格」を見て作付けを決めるのではなく、「去年の価格」を見て今年の作付けを決めるしかありません。去年の高値が今年の増産を招き、増産が今年の価格を押し下げる——この時間差が、価格の振れを大きくしているのです。
早場米はすでにスーパーの店頭でも値下がりが始まっており、家計には朗報です。一方で、生産コストを賄えなくなる農家からは悲鳴も上がっています。単品目の値動きに見えても、物価指数を通じて暮らし全体の実感につながっていく——コメのニュースは、需給という一つのレンズで、恵みと痛みの両方を映し出しています。