「量子コンピュータ」と聞くと、"従来のコンピュータでは何万年もかかる計算を一瞬で"というような、派手な見出しを思い浮かべるかもしれません。しかし今回の富士通の発表は、そういった話ではありません。量子ビットを、どうやって「つなげて」大きくするかという、地味だけれど本丸に近い課題への一歩です。
量子コンピュータの計算単位である量子ビットは、重ね合わせによって0と1を同時に扱えるという性質を持っています。ただし、この性質はとても壊れやすく、実用的な計算をするには、量子ビットの数を増やし、それらを正確に連携させる必要があります。今回富士通が試作したのは、ダイヤモンド結晶の中にわずかな不純物(格子欠陥)を作り、そこに生じる電子や原子核の「スピン」という性質を、量子ビットとして利用する方式です。従来はNV(窒素-空孔)センターと呼ばれる欠陥が主流でしたが、今回はSnV(スズ-空孔)センターという別の欠陥をチップ上に集積した、世界初の試みだといいます。
この方式のポイントは、光を使って量子状態をやり取りできることです。量子ビットを1つのチップにひたすら詰め込むのではなく、複数のモジュールを光でつなぎ、全体として大きな量子コンピュータに育てていく——そんな道筋が描かれています。富士通は2027年に、複数の量子モジュールからなるプロトタイプの開発を目指すとしています。
量子コンピュータは、あらゆる計算が速くなる万能の魔法の機械ではありません。素因数分解や分子のシミュレーションなど、得意な問題がある一方、量子状態の壊れやすさという大きな壁も残っています。量子技術のニュースに触れるときは、「これは、どの課題に挑んだ、どの段階の成果か」を問うてみてください。派手な見出しの奥にある地道な工学の積み重ねこそが、この技術が実用に近づく道のりだからです。