真っ白なノートも、白いペンキも、多くは「白色顔料」という化学物質のおかげで白く見えています。とりわけ広く使われてきたのが、酸化チタンという顔料です。ところがEUは、この酸化チタンを食品添加物として使うことを禁止しており、代わりの材料探しが世界的な課題になっていました。そんな中、京都大学などの研究チームが、まったく違う発想で白をつくる技術を、英科学誌ネイチャーに発表しました。
そもそも色とは、光の反射と吸収の組み合わせで生まれるものです。リンゴが赤いのは赤い波長の光を反射し、他を吸収するから。同じように、多くの白い物は、あらゆる波長の光を化学的に反射する顔料の力を借りて白く見えています。今回の技術がユニークなのは、その顔料を一切使わないことです。透明な樹脂に光を当て、弱い溶剤に浸すと、内部にごく微細な泡のような空間がたくさんできます。この構造そのものが、外から入ってきたあらゆる波長の光を、均等に四方へ散らします。化学物質の色ではなく、構造がつくる色——これが「構造色」と呼ばれる現象です。
ここで、空が青く見える理由を思い出すと、面白い対比が見えてきます。青空は、大気中の分子が波長の短い青い光を「選んで」強く散乱させることで生まれていました。今回の技術も同じ「散乱」を利用していますが、こちらはあらゆる波長を「偏りなく」均等に散乱させることで、白を生み出しています。選んで散らせば青、偏りなく散らせば白——同じ物理現象の使い方一つで、まったく違う色が生まれるのです。しかも化学的な顔料を加えていないため、有害な物質を心配する必要がなく、印刷や包装、繊維など幅広い応用が期待されています。
新素材や新技術のニュースに触れたときは、「これは、どんな仕組みで、その性質を実現しているのか」を問うてみてください。今回の白色印刷技術のように、既知の物理現象(散乱)の使い方を少し変えるだけで、環境や健康への負荷を減らす技術革新が生まれることがあります。