「1種類のタイルだけで床を敷き詰める。ただし、どこまで並べても同じ模様が絶対に繰り返さないように」。パズルのようなこの問いは、数学で「アインシュタイン問題」と呼ばれ、長いあいだ解けずにいました。2023年に「ハット(帽子)」の形をしたタイルでついに解決され、今回、その形を実際の微細な構造にして光を当てると、風車のようにねじれた模様が現れた——役に立たなそうな純粋数学が、光を操る技術の入口になった、という話です。
鍵を握るのは対称性です。対称性とは「どんな規則で形が繰り返す(あるいは繰り返さない)か」のこと。雪の結晶の六角形も、左右対称な顔も、対称性の話です。面白いのは、この数学の言葉が、そのまま光の振る舞いを説明する言葉になることです。光は波なので、細かい構造に当たると、すき間を回り込んで干渉し、特有の模様(回折像)を作ります。構造の対称性が、そのまま光の模様の対称性として写し取られるのです。
今回観測されたのは、風車状にねじれた回折像でした。さらに、左回りと右回りの円偏光(光の回り方)で、回折の強さが違うことも分かりました。これは、構造そのものが「鏡に映すと重ならない」性質——右手と左手のようなカイラル(利き手)な対称性——を持つことを示します。ふつうの規則正しい結晶や、鏡映対称な準結晶では、こうした左右差は現れません。「ただのタイルの敷き詰め方」が光の偏りまで生む、というのは直感に反するところです。
ここから持ち帰れる見方があります。「何の役に立つの?」と思える基礎研究ほど、光を操る技術のような思わぬ応用の種を抱えていることがある、ということです。純粋数学と光技術という、一見遠い二つを結んだのは、対称性という共通の言葉でした。次に「難問がついに解けた」というニュースを見たら、その答えがどんな別分野の扉を開けるのか——そんな目で読むと、基礎研究の値打ちが違って見えてきます。