土星といえば、北極を取り囲む六角形の雲の模様を思い浮かべる人もいるかもしれません。あの模様は40年以上前から知られる、土星大気の名物です。今回、バスク大学の研究チームがハッブル宇宙望遠鏡などの観測データを解析したところ、反対側の南極にも、頂点間の長さが平均約16,800kmという十角形(デカゴン)の大気の波が存在することが分かりました。成果は2026年9月2日付の学術誌「Science Advances」に掲載されています。
不思議なのは、誰かが土星の大気を十角形に「デザイン」したわけではない、という点です。土星の南緯63度付近には秒速およそ116mで吹くジェット気流があり、そこに南緯55度付近にあった高気圧性の渦(アンチサイクロン)が加わったことで、大規模な波のうねりが生まれたと研究チームは見ています。単純な物理の要素どうしがぶつかり合った結果、十個の頂点を持つ整った形が立ち上がる——これはまさに創発と呼ばれる現象です。全体の設計図がなくても、部分どうしの相互作用だけで秩序が生まれるのです。
もう一つの見どころは、この十角形が北極の六角形と「似ているのに、同じではない」ことです。北極の六角形は40年以上ほとんど形を変えない安定構造ですが、南極のデカゴンは2023年以降の観測ではっきり現れてきたもので、一過性の可能性も残ります。自然界の対称性は、まったく同じ条件からしか生まれない一点物ではなく、似た仕組みからでも渦の強さや位置といった条件次第で違う顔つきのパターンになりうる——そう捉えると、雪の結晶や台風の目など、身の回りの規則正しい形を見る目も少し変わってきます。