「保険料を安くできます」と誘う"ビジネス"が、思わぬ形で表に出ました。厚生労働省と日本年金機構の調査によると、個人事業主が一般社団法人の役員などに名目上就任し、国民健康保険より安い健康保険・厚生年金に切り替える「国保逃れ」が横行していたといいます。調査した45法人のうち38法人で不正が確認され、対象となった1万1610人は被保険者資格を失い、さかのぼって本来の保険料を求められることになりました。
からくりはこうです。個人事業主として得ている所得はそのままに、書類の上だけ法人の役員という立場を作る。役員として法人から受け取る給与を低く設定すれば、労使折半で計算される健康保険・厚生年金の保険料は、実質的な所得に比べてかなり軽くなります。中には、週に数時間という極端に短い勤務時間で「雇用」した形を取るケースもあったそうです。
ここで効いてくるのが、税と保険料の「公平」という考え方です。税の世界には、「多く稼ぐ人ほど多く負担する」垂直的公平と、「同じ条件なら同じ負担」という水平的公平という、二つのものさしがあります。国保逃れが問題なのは、実質的な所得も働き方も変わっていないのに、書類上の立場を変えるだけで保険料だけが下がってしまう点です。同じ所得なのに負担が違う——これはまさに、水平的公平が崩れている状態です。
さらに、社会保険はそもそも「みんなで少しずつ負担を出し合う」仕組みだったことを思い出すと、この問題のもう一つの側面が見えてきます。健康なときに払い、病気になったときに支えられる——この相互扶助が成り立つのは、負担すべき人がきちんと負担しているからです。抜け穴を使って負担を減らす人が増えれば、その分の重みは、律儀に払い続けている人たちに、じわじわと及んでいきます。「自分だけ得をする」工夫のように見えて、実は制度を支える土台を少しずつ削っていく行為なのです。
保険料や税をめぐるニュースに触れたときは、「制度が意図した公平さは、今も保たれているか」を問うてみてください。抜け穴は、それを使わない人の負担として、静かに姿を変えて現れます。