警察庁が公表した特殊詐欺の集計(2026年1〜7月・暫定値)によると、認知件数は26,051件で前年同期より16.6%増え、被害額は2,108.1億円で42.9%増えました。件数より被害額の伸びのほうが大きいという点に、まず目を止めたいところです。手口別に見ると、SNSを通じた「投資詐欺」が被害額で最も多く(881.2億円)、警察官や検察官などを装う「ニセ警察詐欺」も件数・被害額ともに急増しています。
犯罪の数字を読む力を思い出すと、こういう場面で大事なのは、認知件数の増加を「詐欺そのものが増えた」とそのまま受け取らないことです。とはいえ今回は、件数だけでなく被害額の伸びのほうがはるかに大きいという特徴があります。これは、暗数や集計方法の話では説明しにくく、むしろ「1件あたりの被害額」が膨らんでいることを示唆しています。実際、SNS型投資詐欺は1件で1000万円を超える被害も珍しくないとされ、こうした高額の手口の割合が増えたことが、被害額の伸びを押し上げていると読めます。
では、なぜ人はこうした話に引き込まれてしまうのでしょうか。ここで効くのが、説得の三つの柱——ロゴス・パトス・エトスという枠組みです。「ニセ警察詐欺」は、「警察官です」「検察庁の者です」という肩書きを名乗ることで、話の中身を吟味される前に信頼を得ようとします。これはエトス(信頼)への働きかけです。そこに「今すぐ手続きしないと口座が凍結される」といった緊迫した言い回しが重なると、パトス(感情)も動員され、冷静な判断が難しくなります。SNS型投資詐欺のほうも、「確実に儲かる」「著名な投資家が監修している」といった、一見筋が通って見える説明(ロゴスの偽装)で警戒を解こうとします。
三つの柱は、本来、演説や広告のような正当な説得を分析するための道具でした。しかし同じ仕組みは、悪用しようと思えば、詐欺のシナリオにもそのまま使えてしまいます。だからこそ、儲け話や公的機関を名乗る連絡に接したときは、「これはロゴス・パトス・エトスのどれに訴えているのか」と一歩引いて分解してみることが、警戒心を保つ具体的な手がかりになります。数字の伸びの裏には、手口がより巧妙に、説得の技術を借りるようになっているという変化がある——そう読むと、この統計は単なる増減以上の意味を持って見えてきます。