アズリテ
人文科学 / 哲学・思想

世界のことば、日本のことば

読了目安 4/灯る概念:

ことばの、驚くべき多様性

世界には、どれくらいの言語があると思いますか。答えは、数千——一説には七千前後とも言われます。そして、その一つひとつが、前に見たように、体系的な文法を持つ、精巧な体系です。このレッスンでは、ことばの多様性の世界を旅します。世界の言語の驚くべき違い、消えゆく言語の問題、そして、身近な多様性である方言。ことばの多様性を知ることは、文化の多様性を知ることであり、人間の可能性の広がりを知ることでもあります。

世界の言語は、こんなに違う

世界の言語を見渡すと、その仕組みの多様さに、驚かされます。日本語や、学校で習う英語が「言語の普通の形」だと思っていると、その思い込みは、気持ちよく裏切られます。

  • 語順が、違う:日本語は「私は本を読む」の順ですが、英語は「私は読む、本を」の順。世界には、様々な語順の言語があり、どれが「自然」ということはありません
  • 音が、違う:言語によって、使う音の種類も数も、大きく異なります。日本語にない音を区別する言語、日本語よりずっと少ない音でやりくりする言語
  • 何を文法で区別するかが、違う:ある言語は、ものの数を厳密に区別し、ある言語は、話し手がその情報をどう知ったか(見たのか、聞いたのか)を、文法で必ず示します。言語ごとに、「世界の何を、ことばで刻むか」が違うのです

この多様性は、前に言語と思考で見た、「言語が思考に影響するか」という問いにも、つながります。数千の言語は、人類が世界を捉える、数千の異なる工夫の集まりなのです。

消えゆく言語——多様性の危機

しかし、この言語の多様性は、今、危機にあります。数千の言語のうち、多くが、消滅の危機にあるとされているのです。

言語は、話す人がいなくなれば、消えます。グローバル化や社会の変化の中で、小さな言語の話者は、より大きな言語(経済的に有利な言語)へと移っていきます。子どもたちが、親の言語を受け継がなくなれば、その言語は、一世代で危機に瀕します。

言語が一つ消えることは、単に「ことばが一つ減る」ことではありません。

  • その言語が担ってきた、物語、歌、知恵、歴史が、失われる
  • その言語にしかない、世界の捉え方が、失われる
  • その言語と結びついた、共同体のアイデンティティが、揺らぐ

これは、生態系の多様性の喪失にも似た、人類の文化的な財産の喪失です。だから、世界では、危機に瀕した言語を記録し、継承を支える取り組みが、行われています。言語の多様性は、守る価値のある、人類の宝なのです。

方言——身近にある、ことばの多様性

言語の多様性は、遠い世界だけの話ではありません。方言という形で、私たちのすぐそばにあります。そして、方言についても、前に学んだ言語学の視点が、大切になります。

方言は、「標準語が崩れた、田舎のことば」では、ありません。

  • 方言は、その土地の歴史と暮らしの中で育った、体系的な言語変種です
  • 方言には、標準語にはない、繊細な表現や区別があります
  • 方言には、その地域の文化、感覚、人間関係のあり方が、息づいています

かつて、方言は「矯正すべきもの」とされた時代がありました。標準語の普及が国家の政策だった時代です。しかし今、方言は、地域の文化的な財産として、見直されています。方言を話せることは、恥ずかしいことではなく、もう一つの言語体系を持っている豊かさです。標準語と方言を、場面に応じて使い分ける人は、いわば、ことばの二刀流なのです。身近な方言に、ことばの多様性の価値を見る目——それも、言語学が贈る、大切な視点です。

ニュースで使う視点

消滅危機言語、方言の見直し、多言語社会に関わるニュースに触れるときは、「言語の多様性は、文化の多様性であり、人類の財産だ」という視点を思い出してみてください。ことばの多様性を尊重する目は、異なる文化への敬意と、足元の地域文化への愛着の、両方を育ててくれます。次の最終レッスンでは、ことばの最大の謎——子どもはどうやって言語を身につけるのかを見ます。

理解度チェック

全問回答でレッスン完了・概念が灯ります
0 / 2
Q1世界の言語の多様性について、正しい理解はどれですか?
Q2方言についての、言語学的に適切な見方はどれですか?

この概念とつながる他のレッスン

同じ概念を別のコースの視点から学ぶと、知識が地図としてつながります。