最も身近で、最も見えない力
スイッチを押せば、灯りがつく。コンセントにつなげば、機器が動く。電気は、現代生活の、まさに血液です。しかし、「電気とは、何か」と問われて、答えられる人は、多くありません。見えず、触れられず(触れたら危険です)、それでいて、文明全体を動かしている——電気は、最も身近で、最も見えない力です。このコースでは、電気と磁気の科学を、物理の基本から読み解きます。電気の正体、磁気との意外な関係、モーターと発電、そして文明との関わり。まず、「電気の正体」から始めましょう。
電流の正体は、粒の流れ
電気の正体に迫るには、前に熱で学んだのと同じく、物質を作る小さな粒の世界へ、目を向ける必要があります。あらゆる物質は、原子という小さな粒からできています。そして、その原子の中には、電気を帯びた、さらに小さな粒——電子など——が含まれています。
ここが、鍵です。「電気を帯びる」とは、物質の基本的な性質の一つで、電気にはプラスとマイナスの二種類があり、同じ種類は退け合い、違う種類は引き合います。冬にドアノブでパチッとくる静電気は、この電気が、たまって、一気に移動する現象です。
では、「電流が流れる」とは、何が起きているのでしょうか。
- 金属などの物質の中には、自由に動き回れる電子が、たくさんあります
- ふだん、これらの電子は、バラバラの方向に動いています
- そこに電池などをつなぐと、電子たちが、いっせいに、同じ向きへ移動し始めます
- この、電気を帯びた粒の流れこそが、電流の正体です
つまり、電線の中を「電気という液体」が流れているのではなく、電線の金属の中の電子が、押し流されるように移動しているのです。目に見えない粒の、目に見えない行進——それが、私たちの生活を支える電流の、正体です。
通す物質、通さない物質
電気について、誰もが知っている事実があります。電気を通しやすい物質と、通しにくい物質がある、ということです。金属は電気を通す。ゴムやガラスは通さない。だから、電線は金属で作られ、その周りはゴムなどで覆われています。なぜ、この違いが生まれるのでしょうか。
答えは、先ほどの電流の正体から、素直に導けます。電流とは、自由に動ける電子の流れでした。ならば——
- 金属には、自由に動き回れる電子が、豊富にある。だから、電流が流れやすい(導体)
- ゴムやガラスでは、電子が、原子にしっかり縛られていて、自由に動けない。だから、電流が流れにくい(絶縁体)
この単純な原理が、電気を安全に使う技術の、土台です。通したいところには導体を、触れても安全にしたいところには絶縁体を。電線、コンセント、あらゆる電気製品が、この「通す・通さない」の使い分けで、設計されています。ちなみに、前に半導体で学んだ「半導体」は、その名の通り、条件によって通したり通さなかったりする、中間の物質です。この絶妙な性質が、コンピュータを可能にしました。電気の基本を知ると、現代技術の土台が、つながって見えてきます。
見えないものを、理解する
電気の学びは、科学の大切な姿勢を、教えてくれます。それは、見えないものを、そのはたらきから理解する、ということです。
電子は、目に見えません。しかし、科学は、様々な実験と観察から、「電気を帯びた粒が存在し、その流れが電流である」というモデルを、確立しました。前にモデルで学んだように、この見えない世界のモデルが、現実の電気現象を、見事に説明し、予測します。そして、そのモデルにもとづいて、私たちは、電気を自在に操る技術を、築いてきたのです。
見えないから、分からない、ではなく、見えなくても、そのはたらきを調べ、理解し、利用する——電気の科学は、科学的方法の、輝かしい成功例なのです。次のレッスンでは、電気と、もう一つの見えない力——磁気との、驚くべき関係を見ます。
ニュースで使う視点
電力、電気製品、感電事故、静電気に関わる話題に触れるときは、「電流とは、電気を帯びた粒の流れである」という基本を思い出してみてください。この理解は、電気の安全な使い方から、電力技術のニュースまで、幅広い理解の土台になります。次のレッスンでは、電気と磁気の、意外で深い関係を見ます。