「今世紀末までに海面が数十cm上がる」——気候のニュースでよく見る数字です。でも、その土地に住む人が本当に向き合う水位は、この平均値では測れません。
Nature Communications に載った研究は、世界の人口が集中する沿岸域で、人々が実際に経験する海面上昇が年およそ6mm——世界の海岸線平均(年2.1mm)の約3倍だと示しました。差を生むのは海ではなく、足元の陸です。ジャカルタは年13.7mm(場所によっては42mm)、天津13.5mm、バンコク8.5mmというペースで土地そのものが沈んでいます。
ここで効くのが、測るとは何かという視点です。「海面が◯mm上がった」は、いったい何を基準にした数字なのか。人が経験する浸水は、海に対する土地の高さ、つまり相対的な海面上昇で決まります。基準である陸が動けば、たとえ海の上昇が同じでも、危険はまるで違ってくる。絶対の値と、相対の値を取り違えないこと——それがこのニュースの鍵です。
沈下の主因は自然現象よりも人の活動です。地下水の汲み上げ、川の三角州にたまった若い地層が押し固まる圧密、そして膨張する都市の重み。海の上昇と陸の沈下、二つの動きが足し合わさって危険が積み上がる——システムとして見ると、この合算が見えてきます。
そして、ここに希望もあります。東京はかつて年10cmを超える沈下に見舞われましたが、地下水の汲み上げ規制と水源の切り替えで抑え込みました。気候による海面上昇はすぐには止まりませんが、沈下の多くは人が作った要因です。危険を「海側」と「陸側」に分けて測れば、今日から打てる手がどこにあるかが見えてきます。