熱いお茶は放っておけば冷めます。熱が四方八方へ逃げて薄まるからです。この「広がって当たり前」の熱を、光線のように束ねて狙った向きへ導けた——そんな観測が報告されました。
UCLAの研究チームは、熱をよく伝える結晶「ヒ化ホウ素」の中で、熱が結晶の向きに沿って線状に集まって進む様子を室温で捉え、Nature Physicsに発表しました(8月7日)。熱を運ぶのは、原子の格子が細かく震える「フォノン」という振動です。ふだんフォノンはあちこちにぶつかって散り、熱はランダムに拡散します。ところがこの結晶では散乱が弱く、フォノンが波としてまとまり、結晶面の向きごとに決まった方向へ「光線」のように流れたのです。距離にして1マイクロメートル程度、条件次第で数十マイクロメートルまで届く見込みで、これは実際の素子で使える大きさです。
なぜ騒がれるかというと、半導体チップの弱点が「熱」だからです。回路を微細に詰め込むほど熱がこもり、性能・信頼性・微細化の限界になります。熱を狙った向きへ導けるなら、熱に弱い部品を避けて排熱の通り道を引ける——AIハードや量子デバイスの設計を変えるかもしれません。熱が消えるのでも、発電するのでもありません。要点は「どこへ流すかを選べる」こと。
持ち帰れる見方はこうです。技術の壁は、力を増やすことより「向きを制御する」ことで越えられる場合がある。熱という、いちばん御しにくい相手でそれが見えた一例です。