宇宙飛行士の敵は「孤独」だと思われがちです。ところが南極で10か月を過ごした12人の記録は、逆のことも教えてくれました。近すぎることも、同じくらい人を追い詰めるのです。
チューリヒ大学やベルン大学などの研究チームは、南極のコンコルディア基地で越冬した乗員12人を、10か月にわたって追跡しました。4つの時点でアンケートに答えてもらい、さらにセンサーで「誰と、どれだけの時間、近くにいたか」を自動で記録。すると、頻繁に接触するほど緊張と不信が高まり、乗員はしだいに言語・文化ごとの小集団に分かれていきました。「私たち」と「あいつら」の線引きが、閉じた空間の中で強まっていったのです。何を拠りどころに自分たちを区切るか——そのアイデンティティが、母語や出身文化に沿って現れたことになります。
なぜ南極かというと、コンコルディア基地が火星ミッションの「代理環境」だからです。閉鎖された空間、単調な毎日、地球からの隔絶——月や火星への長い旅に近い条件を、地球上で先に体験できます。手の届かない対象を、条件の似た場で前もって調べる。科学がよく使う手口です。
ただし、これは12人という小さな観察であることも忘れずに。一つの研究で「人間はこうだ」と断定はできません。それでも、隔離の難しさが孤独の一語では足りないと示した意味は小さくない。
持ち帰れる見方はこうです。閉じた集団では、距離の取り方そのものが問題になる。近づけば結束するとは限らず、近すぎれば「私たち」と「あいつら」に割れる。宇宙の話であると同時に、職場や共同生活にも通じる人間の癖です。