JAXAと東京大学などでつくるワーキンググループが9月16日、新潟市で開かれた日本惑星科学会の秋季講演会で、次の小天体探査計画の目的地候補を発表しました。2030年代前半の打ち上げを目指すこの計画では、火星の軌道より外側に遠日点を持つ天体の中から、小惑星「ネレウス」、「ブランペイン彗星」、小惑星「2001SK162」の3天体まで絞り込まれています。親機と小型の着陸機を組み合わせて試料を採取し、地球に持ち帰るまでには5年から13年かかる見込みです。
3つの候補は、大きさも軌道も性質もそれぞれ違います。ネレウスは直径約330メートルの小惑星で、実はかつて探査機「はやぶさ」が最初に目指していた天体でした。開発の過程で目的地はイトカワに変更されましたが、何十年もの時を経て、ネレウスは再び候補の一つに戻ってきています。ブランペイン彗星は候補の中で最も遠くまで軌道を伸ばし、木星の軌道近くまで到達します。2001SK162は直径0.8〜1.9キロと候補の中で最も大きく、反射率が低く暗い天体です。
なぜ、こんなに時間をかけて絞り込みを続けるのでしょうか。探査機を打ち上げられる回数にも、かけられる予算にも限りがあります。経済学の出発点にある考え方を借りれば、3天体のうちどれか1つを選ぶということは、残る2つを探査する機会をまるごとあきらめるということです。ある選択のために手放した「次善の選択肢の価値」を機会費用と呼びますが、探査目的地の選定は、まさにこの機会費用をできるだけ小さくするための作業だと言えます。宇宙開発には常に費用と優先順位の問題がついて回る以上、どこを目指すかという一つの決定に、これだけの時間と議論がかけられているのです。