米国で、AIのリスクを補償する保険の開発が新興の保険テック企業を中心に相次いでいます。ところが、体力のある大手損害保険会社ほど参入に慎重で、動きが鈍いのが実情です。背景には、2026年のAI関連訴訟(著作権侵害など)が、すでに前年の年間件数を上回るペースで増えているという事情があります。訴訟が増えているのに、なぜ保険会社は尻込みするのでしょうか。
保険という商品は、「確率×被害の大きさ」という期待値の見積もりの上に成り立っています。自動車保険なら、何十年分もの事故データから「どれくらいの確率で、どれくらいの被害が起きるか」を計算できるから、保険料を決められます。ところがAIの失敗(誤った判断、著作権侵害、差別的な出力など)は前例に乏しく、確率も被害額も見積もりにくい。だからAIのリスクをどう管理するかという制度がまだ固まっていない今、大手ほど慎重にならざるを得ないのです。
もっとも、これは永遠の行き詰まりではありません。今まさに増えているAI関連訴訟は、皮肉にも将来の保険料計算を支える「データ」を蓄積している面があります。自動車保険もサイバー保険も、最初は前例のないリスクでした。新しいリスクが保険として扱えるようになる道筋は、たいてい「事例が積み上がり、見積もりの材料が増える」という同じ順番をたどります。