「普段は激しく競い合っているはずの企業が、なぜ足並みをそろえたのか」——OpenAIが8月27日に発表した公開書簡には、Google、Microsoft、Anthropic、AWS、Ciscoなど、AI・クラウド業界の主要プレイヤーを含む120社超が名を連ねました。書簡は、AIを使ったサイバー攻撃がこの先さらに広範かつ高度になり、病院や浄水場などのインフラが危険にさらされると警告しています。
こうした場面での協力は、サイバーセキュリティが社会全体の課題であることと深く関わっています。一つの企業がどれだけ自社の防御を固めても、取引先や利用者を経由した攻撃、社会インフラへの波及までは防ぎきれません。「自分は対策済みだから大丈夫」では済まない構造があるからこそ、業界を横断した連携が意味を持ちます。
この構造は、全員の利益になることに、なぜ誰も進んで動きたがらないのかという集合行為問題の裏返しでもあります。ふつう、コストのかかる対策への協力は「他社に任せたい」という誘因が働き、後回しにされがちです。今回、120社超が同時に動いたのは、AIによる攻撃の高度化という共通の脅威が、"自社さえ良ければ"という発想では対処できないほど大きくなったと各社が認識したからだと読めます。
書簡が掲げる3原則——現状のセキュリティ対策は不十分であること、防御側にもAIを行き渡らせること、一国・一社に頼らない国際連携——は、いずれも「攻撃側は協力せずとも強くなれるが、防御側は協力しなければ弱いままだ」という非対称性への対応です。競合が手を組む場面に出会ったら、その裏にどんな共通の脅威と損得の構造があるかを探ってみると、ニュースの見え方が変わってきます。