北海道の十勝岳で、9月12日に噴火警戒レベルが3(入山規制)に引き上げられました。ニュースを聞くと身構えますが、よく読むと不思議な点に気づきます。噴火は、まだ起きていません。では、何が引き上げの根拠になったのでしょうか。
気象台が注目したのは、8月中旬以降に増えている、振幅の大きな火山性地震です。地下でマグマが動くと、周辺の岩盤に力がかかり、特有の地震が発生しやすくなります。つまり地震の増加は、「地下で何かが動いている」という間接的なサインにすぎません。噴火がいつ・どの規模で起きるかを正確に言い当てる手段は、今の科学にはないのです。
ここで働いているのが、地震や噴火のニュースを読むときの基本である、予知と確率的評価の区別です。「このサインが出たら、必ず何日後に噴火する」という予知はできません。できるのは、「危険な兆候が増えているので、起きたときに備えて範囲を広げに規制しておく」という、確率にもとづく予防的な判断です。火口からおおむね3キロの範囲で噴石への警戒が呼びかけられているのも、この考え方にもとづきます。
ここで、もう一つの問いが立ちます。「起きるかどうか分からないもの」に、どこまで社会は備えるべきか。リスクは、確率と影響を掛け合わせて測れます。噴火の確率自体は低くても、噴石による被害は命に関わりうるほど深刻です。だからこそ、確率が低くても備えを厚くする——これは、地震の「30年以内に70%」と同じ発想です。逆に言えば、規制が空振りに終わる(=噴火が起きない)ことは、リスク管理としてはむしろ「正しく機能した」証拠になりえます。
いつ噴火するかを当てられないからこそ、社会は「起きてから動く」のではなく「兆候の段階で動く」ことを選びます。噴火警戒レベルのニュースを見たら、「これは予知ではなく、確率にもとづく予防的な備えだ」と読み解いてみてください。