10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が、全国のすべての事業主に義務づけられます。従業員を1人でも雇っていれば大企業でも個人商店でも対象で、猶予期間はありません。企業には、方針を明確にして周知すること、相談窓口を整えること、実際に相談があれば迅速に事実確認して対処すること、相談者のプライバシーを守ることなど、複数の措置が求められます。
ここで興味深いのは、法律がカスハラを「顧客等の言動であって、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と定義していることです。「これをすれば違反」という具体的な行為のリストではなく、「社会が許容する範囲を超えているかどうか」という社会の規範を基準にしているのです。
何が「正当なクレーム」で何が「行き過ぎた要求」かは、実は時代によって動いてきました。かつて「お客様は神様」という言葉が強く支持されていた頃には、今なら問題視されるような長時間の叱責や執拗な要求も、接客業では当然のこととして受け流されがちでした。しかし人手不足や働き手の権利意識の高まりとともに、社会が許容する範囲そのものが動き、これまで「仕方ない」とされてきた行為が「逸脱」として法律の対象になったのです。ある行為が問題視されるかどうかは、行為そのものではなく、それを見る社会の側の基準が動くことで変わっていく——今回の法改正は、その規範の変化を条文に落とし込んだ一例といえます。