ワクチンにマイクロチップが入っている、政府や製薬会社は本当のことを隠している——。新型コロナ下で広まったこうした話を信じる人に、正しい情報を見せれば考えは変わるのか。立正大学の山本仁志教授らの研究チームが、2020年4月から2024年4月にかけて計5回行った調査で確かめました。分析の対象は、5回すべてに答えた600人です。
結果は二つ。まず、陰謀論を信じる人ほど、新聞やテレビへの不信が強い傾向がありました。もう一つは、そういう人に正確な情報を流しても、考えを改める是正効果は薄かったことです。
ここで小さな「へぇ」があります。私たちは陰謀論というと「SNSの見すぎ」を思い浮かべがちですが、この研究ではSNSの影響を直接の原因とは裏づけられませんでした。効いていたのは、マスメディアへの不信のほうです。ただし「確認できなかった」は「関係ゼロが証明された」ではありません。SNS時代の情報環境が偽情報を広げる仕組みは、依然として別の研究の主題です。
もう一つ、見逃せない点があります。「政府や製薬会社が情報を隠している」型のほうが、「マイクロチップ」型より信じられていました。荒唐無稽な話より、「隠されているかもしれない」という疑いのほうが、人の心に入りやすいということです。
だから偽情報への対策は、正しい情報を増やすだけでは足りません。その情報を「誰が」伝えるのか、その相手が信頼されているのかまで含めて考える必要があります。ワクチンが公衆衛生という社会全体の話である以上、届かない情報の問題は、他人事ではありません。
次に何かの調査結果を見かけたら、「この数字は何が原因だと言えて、何は言えていないのか」を一度確かめてみてください。この一問は、研究のニュースならどれにも使えます。